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☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English) おまけTwilog

2014年1月11日土曜日

新着論文(Ngeo#Jan2014)

Nature Geoscience
January 2014, Volume 7 No 1 pp1-76

Editorials
Peer-review variations
ピア・レビューの変動
論文を書く初期の段階で、ピアレビューの選択肢を自覚しているかどうかがその後ダブル・ブラインド方式のピアレビューへの参加/不参加を分けることが半年間の試みから分かった。

Arctic loss
北極海の損失
北極海の海氷の急速な後退と、大陸棚や永久凍土などからの温室効果ガスの放出が世界の注目を集めている。2010年8月24日、北極海のLaptev海を調査していた研究船から救難信号が発せられた。屈強な救助隊員が駆けつけたが、不幸なことに14名中11名が死亡するという大惨事となった。この例に示されるように、地球科学の野外調査には時として大きな危険を伴う。

Correspondence
Atlantic overturning in decline?
大西洋の子午面循環は衰退しつつあるのだろうか?
Jon Robson, Dan Hodson, Ed Hawkins & Rowan Sutton
大西洋子午面循環(AMOC)は過去・現在の気候において重要な役割を担ってきた。2004年以降大西洋の26ºN線などでRAPID-MOCHAと呼ばれるAMOCの強度のモニタリングが行われているが、2004年〜2012年にかけてAMOCに衰退の傾向が見られている。またAMOCの強弱の良い指標になるLabrador海の海水密度の低下が短期的な変動ではなく、長期的な数十年スケールの変動であることがモデルシミュレーションからも支持された。ただし、依然としてモデルの不確実性は大きく、観測も亜熱帯域などで限られたものになっている。近年の現象をより詳細に観測することでモデルや理論を検討することができると思われる。

Filling the phosphorus fertilizer gap in developing countries
発展途上国においてリン酸肥料のギャップを埋める
Andrew Simons, Dawit Solomon, Worku Chibssa, Garrick Blalock & Johannes Lehmann

In the press
The day the Earth smiled
地球が笑った日
Emily Lakdawalla
土星探査機カッシーニが深宇宙から捉えた地球の姿。
>より詳細な記事(SKY & TELESCOPE)
Wave at Saturn (But Will Cassini See You?)

Research Highlights
Mountains afloat
浮かぶ山脈
Geology http://doi.org/qb5 (2013)
モロッコのAtlas山脈は断層の力だけでは説明ができないほど高度が高いが、地震波の観測とモデルシミュレーションを用いた研究から、上昇するマントルが追加の浮力を与えていることが示唆された。

Tropics on the move
動いている熱帯
J.Clim.http://doi.org/qb7(2013)
降水パターン・蒸発・大気循環で定義される熱帯の気候帯はここ30年間に極側に拡大しつつあるが、そのうち人間活動による放射バランスの変化への寄与はほんのわずかであることがモデルシミュレーションから示唆された。従来10年に1ºの割合で拡大しているとされていたものの、彼らの解析からは亜熱帯の乾燥地域の拡大は10年に0.1-0.2ºであることが示された。

Holey Mercury
穴だらけの水星
Icarus http://doi.org/qb6 (2013)
水星探査機メッセンジャーの撮影した画像によると、水星の表面は数kmの穴だらけで、水星表面のおよそ0.08%を覆っている。そうした構造は太陽の光がよく当たるところや火山活動によって下から暖められていると思われる地域に多くみられ(特にクレーター内部に多い)、おそらく揮発成分をもった物質が昇華することで形成されていると思われる。水星の地下には揮発性の物質が多く存在するのかもしれない。
>関連した記事(ナショナルジオグラフィック ニュース)
水星地表の凹凸、メッセンジャー撮影

Tethys effect
テチス海の影響
Clim. Past 9, 2687–2702 (2013)
中新世にはインド洋と地中海が繋がっていた(テチス海路)。中新世中頃の1,400万年前に全球の気候が温暖から寒冷へと変化したことが知られているが、それにはテチス海路の閉鎖が関係していた可能性がモデルシミュレーションから示唆。それだけですべては説明がつかないものの、インド洋の中層水形成や大西洋子午面循環などへの影響を通じて全球の海洋循環に影響を与えたと思われる。

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Research
News and Views
Marine biogeochemistry: Arctic shelf methane sounds alarm
海洋生物地球化学:北極圏の大陸棚のメタンが警鐘を鳴らす
Peter Brewer
Shakhova et al.の解説記事。
北極海の海洋底の下には大量のメタンが眠っている。レナ川周辺のラプテフ海南部の観測から、気泡や嵐によって海洋底のメタンが大気へと放出されていることが明らかに。

Early Earth: Archaean drips
初期地球:始生代のしずく
Claude Herzberg
Johnson et al.の解説記事。
始生代の地球は現在よりも暑かった。数値モデルから、当時の地殻が非常に厚く、マントルへと落ちてこんでいた可能性が示唆。

Planetary science: Flow of an alien ocean
惑星科学:地球外の海の流れ
Jason Goodman
Soderlund et al.の解説記事。
木星の衛星の一つエウロパの凍った近くの下には液体の水が眠っているかもしれない。地球の海の研究を他の惑星にも応用することで(惑星海洋学:planetary oceanography)、エウロパの海の力学が謎めいた表層地質と結びつけられている。

Economic geology: Copper conundrums
経済地質学:銅の謎
Cin-Ty A. Lee
Chiaradiaの解説記事。
沈み込み帯の島弧火山から噴くマグマの金属含有量はマントルに由来するものと考えられている。しかし、世界中で見られる地殻の厚さと銅の含有量との相関は、地殻が重要な役割を持っていることを示唆している。

Mantle-driven magnetic field?
マントルが駆動する磁場?
Alicia Newton

Letters
Common 0.1 bar tropopause in thick atmospheres set by pressure-dependent infrared transparency
圧力に依存する赤外線への透明性によって定められる厚い大気での0.1barの対流圏界面の一般性
T. D. Robinson & D. C. Catling
地球を含む惑星の対流圏界面(成層圏の底部)は気圧0.1barで生じると考えられている。物理モデルから、「赤外放射に対する透明性の圧力依存性」が対流圏界面の圧力をどの惑星でも同じにしていることが示唆。おそらく厚い大気を持つ天体にも適用可能と思われる。

Ocean-driven heating of Europa’s icy shell at low latitudes
低緯度における海洋が駆動するエウロパの氷殻の加熱
K. M. Soderlund, B. E. Schmidt, J. Wicht & D. D. Blankenship
木星の衛星の一つエウロパの氷殻には謎めいたカオス地形が多く存在し、特に低緯度地域に隆起部や割れ目が密集している。数値シミュレーションから、内部海の対流が赤道域の熱の流れを加速し、地質活動を励起している可能性が示唆。
>Nature姉妹紙 ハイライト
異星の海で攪拌されたオイロパの無秩序な表面

Potential influence of sulphur bacteria on Palaeoproterozoic phosphogenesis
古原生代のリン酸塩形成作用における硫黄バクテリアの影響の可能性
Aivo Lepland, Lauri Joosu, Kalle Kirsimäe, Anthony R. Prave, Alexander E. Romashkin, Alenka E. Črne, Adam P. Martin, Anthony E. Fallick, Peeter Somelar, Kärt Üpraus, Kaarel Mänd, Nick M. W. Roberts, Mark A. van Zuilen, Richard Wirth & Anja Schreiber
これまでに知られている中で、リンに富んだ堆積物は古原生代の20億年前に堆積したことが知られているが、その起源は不確かなままである。ロシア北西部から得られた岩石の地球化学分析から、硫黄酸化バクテリアの存在と堆積物中の酸素・非酸素変遷の存在が、こうした環境下でのリンの蓄積を可能にした可能性が示唆。

Evidence for biogenic graphite in early Archaean Isua metasedimentary rocks
初期始生代のイスアの変成堆積岩の中の生物が生成した黒鉛の証拠
Yoko Ohtomo, Takeshi Kakegawa, Akizumi Ishida, Toshiro Nagase & Minik T. Rosing
グリーンランド西部のイスアの始生代の岩石は黒鉛を含んでいるが、その起源については議論が続いている。地球化学分析と微小領域分析から、少なくとも37億年前に堆積した生物源の炭素に由来していることが示唆。

Motion in the north Iceland volcanic rift zone accommodated by bookshelf faulting
Robert G. Green, Robert S. White & Tim Greenfield

Prolonged Canterbury earthquake sequence linked to widespread weakening of strong crust
Martin Reyners, Donna Eberhart-Phillips & Stacey Martin

Limit of strain partitioning in the Himalaya marked by large earthquakes in western Nepal
M. A. Murphy, M. H. Taylor, J. Gosse, C. R. P. Silver, D. M. Whipp & C. Beaumont

Copper enrichment in arc magmas controlled by overriding plate thickness
上盤プレートの厚さによってコントロールされる島弧マグマ中の銅の濃集
Massimo Chiaradia
銅の斑岩鉱床を伴うマグマはマントルが分化したものと一般に考えられている。しかしながら、世界中の沈み込み帯におけるマグマ的岩石4万点の地球化学分析結果の統計処理から、岩石はむしろ島弧の地殻の厚さによってコントロールされていることが示唆。

Delamination and recycling of Archaean crust caused by gravitational instabilities
重力的な不安定性によって引き起こされる始生代の地殻の非成層化とリサイクル
Tim E. Johnson, Michael Brown, Boris J. P. Kaus & Jill A. VanTongeren
現在の地表には始生代の地殻はほとんど残っていない。熱力学的計算と地球力学モデルから、始生代の始源的地殻がその下のマントルよりも密度が高く、しずくとして沈降しマントルにリサイクルされていた可能性が示唆。

Articles
Recurring slope lineae in equatorial regions of Mars
火星の赤道域において何度も現れる傾きの線形性
Alfred S. McEwen, Colin M. Dundas, Sarah S. Mattson, Anthony D. Toigo, Lujendra Ojha, James J. Wray, Matthew Chojnacki, Shane Byrne, Scott L. Murchie & Nicolas Thomas
火星の中緯度域に毎年暖かい時期になると出現する暗い縞は塩分に富んだ水の流れが原因と考えられてきた。しかしながら、Mars Reconnaissance Orbiterが毎年撮影した画像には、水の存在が期待されない赤道域においてもそうした構造が見られている。

Warming early Mars with CO2 and H2 
二酸化炭素と水素を伴う初期火星の温暖化
Ramses M. Ramirez, Ravi Kopparapu, Michael E. Zugger, Tyler D. Robinson, Richard Freedman & James F. Kasting
初期火星は暖かく、水が流れていたことが古代の谷地形などから示唆されているが、暗い太陽を補うほどの温室効果があったかどうかは疑わしい。気候シミュレーションから、温室効果ガスである二酸化炭素と水素が火山噴火によってもたらされることで、地表が水の凝固点よりも高い温度に保たれていた可能性が示唆。
>Nature姉妹紙 ハイライト
古代火星の温室

Ebullition and storm-induced methane release from the East Siberian Arctic Shelf 
東シベリア北極圏の大陸棚からの沸騰と嵐によるメタン放出
Natalia Shakhova, Igor Semiletov, Ira Leifer, Valentin Sergienko, Anatoly Salyuk, Denis Kosmach, Denis Chernykh, Chris Stubbs, Dmitry Nicolsky, Vladimir Tumskoy & Örjan Gustafsson
北極圏の浅い海底や陸上の永久凍土には大量の炭素が眠っている。ラプテフ海における観測から、海底下の永久凍土から、その上の水柱へとかなりの量のメタンが気泡を通じてもたらされていることが示唆。
>Nature姉妹紙 ハイライト
泡と嵐がもたらす海洋メタン流

Long-period seismicity in the shallow volcanic edifice formed from slow-rupture earthquakes
Christopher J. Bean, Louis De Barros, Ivan Lokmer, Jean-Philippe Métaxian, Gareth O’ Brien & Shane Murphy