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☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English) おまけTwilog

2013年12月29日日曜日

新着論文(NCC#Jan2014)

Nature Climate Change
Volume 4 Number 1 (January 2014)

Editorials
Too little, too late?
少なすぎる?それとも遅すぎる?
ワルシャワでの気候変動枠組み条約会議では気候変化への取り組みに対する世界の同意はほとんど得られなかった。

Blind stock-taking
ブラインドの実績調査
過去6ヶ月にわたって、Nature Climate Change誌は査読者にも誰の論文かを伝えないダブル・ブラインド方式のピアレビューを採用した。その試験的試みに対する予察的な発見を述べる。

Commentaries
Ruminants, climate change and climate policy
反芻動物、気候変化、気候政策
William J. Ripple, Pete Smith, Helmut Haberl, Stephen A. Montzka, Clive McAlpine & Douglas H. Boucher
食肉用の反芻動物の飼育はかなりの量の温室効果ガスを排出している。その家畜数の全球的な削減は気候変化緩和に対してかなりの効果があり、社会的・環境的な他の恩恵も生み出すことになる。

Social learning and sustainable development
社会学習と持続的発展
Patti Kristjanson, Blane Harvey, Marissa Van Epp & Philip K. Thornton
社会学習が気候変化の適応・緩和の科学に対して何を与えるかを理解するためにも、適切な証拠を積み上げる必要がある。

Policy Watch
Climate policy confronts competitiveness
気候政策が競争力と対峙する
ヨーロッパは経済競争力を危機にさらすことなく効果的に気候・環境・エネルギー政策に対処する必要がある。Sonja van Renssenは産業界から聞こえる心配の声を調査している。

Research Highlights
Prey detection capacity
獲物探しの能力
J. R. Soc. Interface http://dx.doi.org/10.1098/ rsif.2013.0961 (2013)
気候変化が生物季節学に影響を与えている。温度変化とコウモリのエコロケーションを利用した獲物検出能力との関係をモデリングしたところ、使用する周波数に応じて検出能力が増加したり減少したりすることが分かった。競合者や獲物との関係性に気候変化が影響する可能性がある。

Lack of coverage
扱い範囲の不足
Q. J. R. Meteorol. Soc. http://doi.org/qbj (2013)
アフリカ地域は近年急速に温暖化しているが、観測が少なく、全球の温暖化の推定の不確実性を増加させている。新たな推定方法からデータがない地域についても推定ができるようになり、データを全く使用しない方法よりも、より良い温度復元が可能になるという。それによると近年の温暖化の傾向は過小評価されている可能性があるという。

Ice reflections
氷の反射
Remote Sens. Environ. 140, 604–613 (2014)
北極の海氷がどれだけの光を反射するかを正確に知ることは、地球の熱収支と放射バランスを考える上で非常に重要である。現在は人工衛星からリモセンで観測しているが、そうした方法は雲被覆や太陽高度の関係で極めて平均化された・限られたものとなってしまうという問題がある。マイクロ波を利用した方法から、そうした問題を解決できる可能性が示された。

Pesticide taxes
殺虫剤税
Clim. Change Econ. 4, 1350008 (2013)
気候変化と農業政策に関して。殺虫剤税の導入が農業生産にかかるコストを増加させる一方で、市場による価格の適切化によって農家は逆に得をする可能性などがモデルシミュレーションから示唆。

Dengue drivers
デング熱の駆動力
PLOS Negl. Trop. Dis. 7, e2503 (2013)
デング熱の伝播には気候に関連した要因、社会経済的状態などが関与していると考えられるが、特に気候に関する要因についてはよく分かっていない。メキシコを対象にした23年間のデータの解析から、20℃を超す気温がデング熱の発生を増加させていることが分かった。また降水量も550mm以下までは増加させていることが示された。さらに将来予測の結果からは、気候変化だけで、2080年までにデング熱の発生件数が40%増加する可能性も示唆された。

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Research
News and Views
Atmospheric science: Long-range linkage
大気科学:長い範囲の関係性
James E. Overland
Tang et al.の解説記事。
北極域の海氷や雪被覆の後退が、大気循環への影響を通じて中緯度域の極端な気象現象に影響を及ぼしていることが示唆された。
>関連した記事(Nature#7479 "RESEARCH HIGHLIGHTS")
Melting ice spurs wild weather
氷の融解が野性的な天気を加速する
中国の気象学者らは、気象記録と最近の北極海の海氷や雪の記録とを比較したところ、北極の海氷後退に伴い、大気循環パターンに変化が見られることを見つけた。例えば、ジェット気流がより北側にシフトしていることなど。こうした変化が2012年のアメリカで見られたような、北半球中緯度域の夏の異常気象の原因になっていると示唆している。

Atmospheric science: Glaciers between two drivers
大気科学:二つの駆動力の間の氷河
Horst Machguth
Mölg et al.の解説記事。
ヒマラヤ地域の山岳氷河にはモンスーンが大きな影響を及ぼしていると考えられてきたが、新たな研究は偏西風もまた重要な役割を負っていることを示唆。

Game theory: Tipping climate cooperation
ゲーム理論:気候の協力を予想する
Timothy M. Lenton
Barrett & Dannenbergの解説記事。
将来起きる逆転不可能な気候変化に対する早期警告システムは、社会に対してそれを回避するための行動を促すことは可能だろうか?行動を起こさせるためには、第一に「いつ転換が起きるのか」に関する不確実性を減少させる必要があることを新たな研究は示唆している。

Perspectives
Global warming and changes in drought
地球温暖化と干ばつの変化
Kevin E. Trenberth, Aiguo Dai, Gerard van der Schrier, Philip D. Jones, Jonathan Barichivich, Keith R. Briffa & Justin Sheffield
近年の研究から、気候変化が干ばつに与える影響に対して相反する結果が得られている。そうした不一致の原因を特定するために、干ばつ指数と観測記録とをレビュー。どのように干ばつが変化しつつあるのかを知るには降水データの質と範囲を改善し、自然の変動をよりよく定量化する必要がある。

Impact of delay in reducing carbon dioxide emissions
二酸化炭素排出削減が遅れることの影響
Myles R. Allen & Thomas F. Stocker
 最近報告された、CO2排出に対する低い気候感度はこれまで考えられてきたよりも排出削減の必要性が緊急でないことを示唆している。
 排出削減が遅れた場合に、約束された温暖化のピークの程度が増加するかを評価。現在観測されている温暖化の速度よりも早く、積算のCO2排出量に沿って温暖化のピークが増加することが示唆。

Review
Pervasive transition of the Brazilian land-use system
ブラジルの土地利用システムに浸透する変化
David M. Lapola, Luiz A. Martinelli, Carlos A. Peres, Jean P. H. B. Ometto, Manuel E. Ferreira, Carlos A. Nobre, Ana Paula D. Aguiar, Mercedes M. C. Bustamante, Manoel F. Cardoso, Marcos H. Costa, Carlos A. Joly, Christiane C. Leite, Paulo Moutinho, Gilvan Sampaio, Bernardo B. N. Strassburg & Ima C. G. Vieira
ブラジルの土地利用の変化と温室効果ガス排出の関係性をレビュー。過去数十年間に農業が増強されたにもかかわらず、森林破壊は減少したため、結果として温室効果ガス排出量は減少した。しかしながら、地方から都市部への人の流入に後押しされる「土地所有の不平等」や「都市の成長」が政策決定者の頭を悩ませ続けている。

Letters
Sensitivity of collective action to uncertainty about climate tipping points
気候の転換点に関する不確実性に対する集団行動の感度
Scott Barrett & Astrid Dannenberg
気候変化に対する早期警告システムは「危険な気候変化の開始時期に関する不確実性」が減少したときにのみ実効性を持つことが示唆。

Continued global warming after CO2 emissions stoppage
CO2排出が止まってからも継続する地球温暖化
Thomas Lukas Frölicher, Michael Winton & Jorge Louis Sarmiento
人為的なCO2排出が止んだとしても、速やかに温暖化が停止するわけではない。地球システムモデルを用いた研究から、初期の温度低下ののちにも温暖化が生じる可能性が示唆。原因としては海洋の熱吸収能力の低下が考えられ、大気中のCO2が減少し、温室効果が減少したとしても海と大気の熱交換が地表面気温に影響するためである。
>Nature姉妹紙 ハイライト
地球温暖化は止まらない

Extreme summer weather in northern mid-latitudes linked to a vanishing cryosphere
消えつつある雪氷圏と関連した北半球中緯度の極端な夏の気象
Qiuhong Tang, Xuejun Zhang & Jennifer A. Francis
 過去10年間には前例のない夏の気象イベントの発生数が異常に多かった。同時に北極圏の海氷も急速に後退しているが、その因果関係については不確かなままである。
 人工衛星による北極圏の雪と海氷の被覆度の観測記録と、大気循環の逆解析記録から、それらの間に相互作用があることが確認された。特に海氷の影響が、消失の範囲は雪の2分の1であるにもかかわらず大きいことも分かった。ジェット気流がより北方に位置していることが、気象配置の固定の期間を長くし、極端な気象現象の発生確率を高めていると推定されている。
>Nature姉妹紙 ハイライト
高緯度域の雪と氷の減少が中緯度域の熱波と結び付いている

High Arctic wetting reduces permafrost carbon feedbacks to climate warming
北極圏高緯度の湿潤化が気候の温暖化に対する永久凍土の炭素フィードバックを低下させる
M. Lupascu, J. M. Welker, U. Seibt, K. Maseyk, X. Xu & C. I. Czimczik
グリーンランド北西部で行われた長期的な気候操作実験から、北極圏高緯度の反砂漠地域の炭素の吸収能力は、温暖化と湿潤化が組み合わさると増加することが示された。将来地球が温暖化してもこれらの地域は依然として大きな炭素の吸収源として振る舞う可能性が示唆される。

Partial offsets in ocean acidification from changing coral reef biogeochemistry
変化しつつあるサンゴ礁の生物地球化学による部分的な海洋酸性化の緩和
Andreas J. Andersson, Kiley L. Yeakel, Nicholas R. Bates & Samantha J. de Putron
 サンゴ礁内と外洋の炭酸系は全く異なるものであり、海洋酸性化の下でも同じように振る舞うわけではない。サンゴ礁内では生物総一次生産(NEP)・総石灰化量(NEC)・生物群集・海水の滞留時間などが複雑に絡み合っているために、非常に不均質になっている。
 バミューダ海域のサンゴ礁における観測から、サンゴ礁内の2100年に予想される海洋酸性化に伴うpHとΩの低下はそれぞれ平均して12-24%、15-31%緩和される可能性が示唆。
[以下は抜粋]
Consequently, if the relative contribution of NEC and NEP and the subsequent changes in TA and DIC were to change owing to future natural or anthropogenic perturbations, the resulting seawater Ω (and pH) will be different from that predicted by oceanic uptake of anthropogenic CO2 alone.

...both NEC and NEP may be affected by the fundamental changes in seawater CO2 chemistry arising from ocean acidification, but the exact responses remain to be characterized.

...it is reasonable to assume that net CaCO3 dissolution during winter in Bermuda will gradually increase as the oceans continue to acidify, with dissolution events persisting over longer time periods and at a greater magnitude owing to lower Ω.

It is important to recognize that even partial restoration of seawater pH and Ω as a result of changes to the NEC and NEP balance implies major alterations to the community composition, net reef accretion, and the function and role of coral reef ecosystems relative to today.

Resilience and signatures of tropicalization in protected reef fish communities
保護された礁の魚集団の熱帯化の耐性と特徴
Amanda E. Bates, Neville S. Barrett, Rick D. Stuart-Smith, Neil J. Holbrook, Peter A. Thompson & Graham J. Edgar
気候変化によって海洋の生態系が脅かされている。温暖化した環境下でも、海洋保護区は大型生物の多様性と豊富さを維持できる可能性が示唆。漁業が行われている場所と比較すると、生息範囲を変化させる種の侵入からも守ることができることが示唆。

Article
Mid-latitude westerlies as a driver of glacier variability in monsoonal High Asia
モンスーン性の高地アジアにおける氷河変動の駆動力としての中緯度の偏西風
Thomas Mölg, Fabien Maussion & Dieter Scherer
アジア高地の氷河の変動には熱帯性のモンスーンが主要な原因を担っていると考えられてきた。チベット平原南部の氷河の質量収支計算から、中緯度の偏西風とモンスーンが5〜6月にもたらす降水が原因であることが示唆され、中緯度の気候にもより注目を寄せる必要があることを示している。