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☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English) おまけTwilog

2012年2月25日土曜日

新着論文(PO)

POの溜まっていたのを消化
Paleoceanography (10 Dec 2011 - 21 Feb 2012)

Quantifying export production in the Southern Ocean: Implications for the Baxs proxy
Maria T. Hernandez-Sanchez, Rachel A. Mills, Hélène Planquette, Richard D. Pancost, Laura Hepburn, Ian Salter, and Tania FitzGeorge-Balfour
Feが生物生産を律速しているような南大洋の海域(Crozet Plateau)で、過剰のBaを使ってどのように生物生産が堆積物に記録されるかを調査。

Pb isotopes and geochemical monitoring of Arctic sedimentary supplies and water mass export through Fram Strait since the Last Glacial Maximum
Jenny Maccali, Claude Hillaire-Marcel, Jean Carignan, and Laurie C. Reisberg
Fram Straitにおいてコアトップのサンプルを砕屑物とその他に分けてそれぞれPb同位体分析。それぞれの供給源が分かるらしい。

High-resolution sea surface reconstructions off Cape Hatteras over the last 10 ka
Caroline Cléroux, Maxime Debret, Elsa Cortijo, Jean-Claude Duplessy, Fabien Dewilde, John Reijmer, and Nicolas Massei
Cape Hatteras(大西洋中緯度域)における堆積物コアの浮遊性有孔虫(Globigerinoides ruberPulleniatina obliquiloculata)殻のMg/Caとδ18Oから過去10,000年間の水温・塩分を高時間分解能で復元。8.3kaと5.2-3.5kaに高塩分化。特に5.2-3.5kaの高塩分化は湾流の北上によって低塩分水の北からの流入が低下したことが原因として考えられる。MOCの弱化との関連?また特にHolocene初期に1000年周期が検出。総日射量(TSI:Total Solar Irradiance)と同じ位相?
※1 P. obliquiloculata is a warm water species whose bulk shell geochemical composition indicates calcification at the base of the upper thermocline, around 100 m depth [Cléroux et al., 2007; Farmer et al., 2007; Steph et al., 2009]
※2 HoloceneのTSIの復元はアイスコア10Beに基づくらしい[Steinhilber et al., 2009, GRL]

Productivity and sedimentary δ15N variability for the last 17,000 years along the northern Gulf of Alaska continental slope
Jason A. Addison, Bruce P. Finney, Walter E. Dean, Maureen H. Davies, Alan C. Mix, Joseph S. Stoner, and John M. Jaeger
アラスカ沖のコアを用いて過去17,000年間の一次生産量(TOCやCdから)や栄養塩利用の程度(δ15N)の変化を議論。特にB/AとHolocene初期は表層での一次生産が高く、低層は低酸素の状態にあったらしい。またそれらは海水準の上昇に伴う微栄養塩(Fe)の流入量の上昇と関係があるらしい。

Toward explaining the Holocene carbon dioxide and carbon isotope records: Results from transient ocean carbon cycle-climate simulations
L. Menviel and F. Joos
Bern3Dというモデルを用いて完新世の炭素循環をシミュレーション。特に最終退氷期と完新世の浅海域の石灰化と陸域の炭素リザーバーをモデルに組み込んでいるらしい。大気CO2やδ13C、深海のδ13Cや[CO32-]もうまく再現できているらしい。

  • 浅海域の石灰化
  • 最終退氷期の陸域の炭酸塩補償(風化?)
  • 完新世の陸域の炭素吸収と放出
  • 最終退氷期の海洋底堆積物の海水との反応(アルカリ度を介したバッファーのこと?)

が完新世後期の20ppmvのCO2上昇を説明。
完新世初期の5ppmvの減少は

  • 炭酸塩の沈殿を補償する陸域のCO2の吸収(??)
  • 海洋底堆積物の海水との反応

が原因らしい。
残りの変動は海水温、海洋循環、輸送生産(export production)による。様々なメカニズムが様々な時間スケールでもってリンクしており、間氷期ごとに様々な大気CO2やδ13C変動が見られることと整合的らしい。

Glacial-interglacial size variability in the diatom Fragilariopsis kerguelensis: Possible iron/dust controls?
G. Cortese, R. Gersonde, K. Maschner, and P. Medley
南大洋の珪藻の主な種であるFragilariopsis kerguelensisに対してサイズと海水のFe濃度間に相関があるかどうかをFe散布実験と極前線付近で得られた堆積物コアを用いて検証。Fe散布実験には相関有り。堆積物コアの記録からもMIS1, 2, 3, 5には氷期にダスト量と珪藻のサイズ間に正の相関が見られたが、6だけは逆相関が見られた。

2012年2月24日金曜日

新着論文(Science)

Science (vol.335, 24 Feb 2012)

Perspectives
EVOLUTION: Some Like It Hot
Felisa A. Smith
Secord et al. の解説記事

Reports
Evolution of the Earliest Horses Driven by Climate Change in the Paleocene-Eocene Thermal Maximum
Ross Secord, Jonathan I. Bloch, Stephen G. B. Chester, Doug M. Boyer, Aaron R. Wood, Scott L. Wing, Mary J. Kraus, Francesca A. McInerney, John Krigbaum
アメリカ・ワイオミング州にあるCabin Fork地域の河川堆積物のうちPETM(Paleocene-Eocene Thermal Maximum: メタンハイドレートの大規模崩壊によって気温が急激に上昇したと考えられている時期。55.8Ma頃)の層準から産出した馬の祖先の歯の化石から環境と馬の体長の相互作用を議論。

歯のエナメルの酸素同位体(δ18O)から気温を復元し、歯の縦横比を体長の間接指標としたとき、PETM直後は体長が30%低下するが、その後76%の上昇に転じる。気温上昇はネットで体長の増加に寄与したらしい。将来の温暖化に対するほ乳類の進化に新たな知見。
※コメント
歯の酸素同位体は気温の指標とされるが、植生・餌の変化などによっても影響されないのか??また気温と相対湿度の影響をどう分ける?
PETMのときに逆に温度低下してない??その後の体長増加の時には確かに温度上昇している。

Collapse of Classic Maya Civilization Related to Modest Reduction in Precipitation
Martín Medina-Elizalde and Eelco J. Rohling
マヤ文明の崩壊と気候との関わりについて。石筍のδ18Oと湖の堆積物の密度・貝形虫の殻のδ18O・カタツムリの殻のδ18Oから降水量を復元したところ、40%程の年降水量の低下が確認。原因としては夏の熱帯低気圧の頻度・強度低下が考えられる。マヤ文明の崩壊は年降水量の低下が原因?
※コメント
最近カタツムリ殻を使った古気候復元がよく見受けられる。
貝と同じくcalciteでδ18Oは同位体平衡に近い状態で形成されてるのか??
気候変動と人類の文明との関わりは重要なテーマだけど、そう単純に結びつけられるかどうかは疑問の余地がある。他の大文明も。

2012年2月23日木曜日

永久凍土が溶けるとより温暖化が進行する

Metagenomic analysis of a permafrost microbial community reveals a rapid response to thaw
Rachel Mackelprang, Mark P. Waldrop, Kristen M. DeAngelis, Maude M. David, Krystle L. Chavarria,Steven J. Blazewicz, Edward M. Rubin & Janet K. Jansson
Nature 480, 368–371 (15 December 2011) doi:10.1038/nature10576

とその解説記事
High risk of permafrost thaw
Edward A. G. Schuur & Benjamin Abbott

より

自分自身、「永久凍土」については知識が全くないので、ほとんどこれらの和訳。

海水のpHの定義

海水のpHは海洋の炭素循環において重要な役割を負っており、人為起源の二酸化炭素放出を原因とする海洋酸性化が現在も進行している。しかしながら海水のpH測定は海水の化学特性のために複雑になっており、海洋化学の分野ではいくつものpHのスケールが存在する。
ここでは現在使われているpHのスケールを簡単にまとめてみたい(ほとんどwikiの和訳)。

※追記
1年後に書いた記事「海水のpHの定義(改)

タヒチの埋没サンゴ礁から過去の海水準変動を復元する

南太平洋タヒチには過去に水没したサンゴ礁が海底に存在する。

これらは地質学的に最終退氷期(最終融氷期)と呼ばれる時期に、10,000年という比較的短期間に140mという規模の海水準の上昇が起こり(主に北半球の氷床の融解が原因)、サンゴが次第に上昇してゆく海水準に追いつけずに水没してしまったという歴史を物語っている。

氷床融解の説明は今回は省略するとして、どのように過去の海水準を復元するかについて少しだけ紹介したい。


サンゴ礁は極めて生物多様性が高い海域の1つであるが、サンゴをはじめとする石灰の骨格を形成する生物が多く存在する(石灰化生物)。
それらにはサンゴ、大型底棲有孔虫、石灰藻、そして微生物の類などが含まれる。
そしてそのような生物は死後埋没し、化石として保存される。
(僕らのような地質学者はそれを掘り起こし、過去に思いを馳せる)


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タヒチの周りにサンゴ礁ができる。ちょっと寒いけどおだやかな日常

海水面が上昇し始める(えっ?急に何??)

あるサンゴが死んじゃう(原因は海水準変動か環境変動か淘汰か寿命か)

海水面はじりじりと上昇し続ける(時には早く、時にはゆっくり)

次のサンゴは前のサンゴの上に乗っかり、せっせと石灰化を行い海水面に近づこうとする(自分が好む水深まで。えっ?まだ上がるの??)

しかしやがてそのサンゴも死んじゃう(海水面早く上昇し過ぎ、次の世代へバトンタッチ)

、というのが何回か繰り返される

サンゴにはこの深さはもうダメ。代わりに深い水深でも生きられる種が繁栄する

いつしかサンゴの姿は消え、過去のサンゴ礁は地下に保存される

そして現代人によってサンゴ礁掘削のボーリングコアによってぶち抜かれる(笑)

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先ほど挙げた、微生物の類いは「microbialite」という真っ黒な不気味な石灰岩を作るが、これらは石灰化生物の隙間を埋める形でびっしりと存在している。
どうやら石灰化生物の死滅後、埋没した後にできるらしい。
これは放射性炭素年代測定から、隣接するサンゴよりも400-1000年程古い年代が得られることからも明らかだ。
また隙間を埋めることでサンゴ礁の安定化にも寄与しているらしい。


2005年にIODP(国際深海掘削計画)の一環でタヒチにおいてサンゴ礁掘削が行われたが、こうしたmicrobialiteが存在したことが、コアの回収率の良さにも現れている。

ECORD


タヒチは過去の海水準を復元するのに適した海域に存在する南太平洋の火山島である。

1つ目の理由は
沈降速度が極めて遅いため、沈降の影響の補正がそれほど必要でないこと
2つ目の理由は
過去に巨大氷床の存在した地域から離れた地域のため、氷床解放による地殻変動の影響を受けないこと
が考えられる。

ではサンゴ礁を掘削し、得られた石灰化生物からいかに海水準を推定するか。


重要なのは「年代」と「石灰化生物の生息水深」及び「採取された試料の海水面からの深度」の3つである。



「採取された試料の海水面からの深度」と「年代」が分かると、その時代のおおまかな海水面の位置が分かる。

例えば現在の海水面から100mの深さにある試料が15,000年前のものと分かると、15,000年前の海水準は現在よりおおよそ100m低い位置にあったことになる。

しかし実際には石灰化生物はちょうど海水面(水深0)に棲息しているわけではなく、ある程度のばらつきをもって0-40m程度の水深に棲息している。

そこで予め生息水深の分かっている石灰化生物を用いることで、海水面の位置を推定することになる。



実際にはあらゆる種の石灰化生物について膨大な量の年代測定を行い、力技で過去の海水準を復元する。

このとき極めて浅い水深に棲息することが分かっている石灰化生物の化石が試料に含まれている(或いはサンゴ等に付着している)と、高精度に海水面の位置を推定することができる。

タヒチの場合、それは

Pocillopora(ハナヤイシサンゴ)やMontipora(コモンサンゴ)というサンゴ (0-10m)
(確かにスノーケリングでよく見る種かも)

やvermetid gastropod(ムカデガイ)という巻貝の一種らしい(0-5m)



インドネシアでの海水準変動復元にはマングローブの根が海水面の指標として使われたのだとか。確かに海水準変動復元にはうってつけかも。


「過去の海水準変動と気候の関わり」は現在の指導教官の主要テーマだけど、最近改めて面白い研究対象だと感じている。

そんな僕はタヒチのサンゴ礁掘削試料の中に含まれているサンゴの一種を使って、過去の環境情報(特に海水温、塩分、pH)を引き出すという研究を修士でしていました(現在も進行中です)。

氷河・氷帽の融解は海水準の上昇にあまり寄与していない?


Recent contributions of glaciers and ice caps to sea level rise
Thomas Jacob, John Wahr1, W. Tad Pfeffer & Sean Swenson
Nature 482, 514–518 (23 February 2012) doi:10.1038/nature10847


と、その解説記事
Shrinking glaciers under scrutiny
JONATHAN BAMBER より。


氷河(glacier)や氷帽(ice cap)は観光や水資源の面で重要であるばかりか、それが融解することで海水準の上昇にも寄与すると考えられる。

しかしながら世界に160,000カ所ある氷河・氷床のうち、現場でモニタリングがなされているのはわずか200カ所ほど。しかもここ30年程度のデータが揃っているのはそのうち37カ所しかない。

そうした事情もあり、氷河・氷帽の観測は遅れており、気候変動に対するそれらの振る舞いの予測にも大きな不確実性が依然として存在する。

そのような現場の観測を補間する上で大きな役割を担うのが「衛星観測によるデータ」である。

ハマサンゴSr/Caは古水温を低く見積もる?

The effect of skeletal mass accumulation in Porites on coral Sr/Ca and d18O paleothermometry
Michael K. Gagan, Gavin B. Dunbar, and Atsushi Suzuki
PALEOCEANOGRAPHY, VOL. 27, PA1203, doi:10.1029/2011PA002215, 2012


産総研・鈴木淳さんも共著の論文。

ハマサンゴ(Porites spp.)のSr/Ca温度計が有孔虫のMg/Ca、アルケノン温度計などと比べて古水温を’低く’見積もる傾向がある原因について。

ブログ開設。新着論文紹介リスト

初投稿。
周囲の友人のmixi離れという裏事情もありつつ、アウトリーチの場としてブログを開始することを決意。
最近流行のFacebookは日記には向かず…mixiのつぶやきやtwitterは逆に短すぎて肝心の内容が薄くなってしまうので。

新着論文紹介もできる限り継続しようかと。横山研で持ち回りで担当している新着論文リスト全部を毎週やるのは無理なので、自分の研究に重要な雑誌に限って。

新着論文なんかは自分のためです。Nature, Scienceは広く面白い最新の科学を取り上げます。

新着論文紹介リストは以下の通り。適宜追加(削除?)予定。



◎Nature (Macmilian Publishers LTD.)