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☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English) おまけTwilog

2012年8月4日土曜日

新着論文(Ngeo#August2012)

Nature Geoscience
August 2012, Volume 5 No 8 pp517-584

Research Highlights
Titan renewed
見直されるタイタン
J.Geophys. Res. http://doi.org/h3r (2012)
土星の衛星タイタンの表面は割と新しい年代(10億年ほど)を示す。氷火山の影響で浸食が起き、表層の再生産プロセスが働いていると考えられているが、流跡を詳細に観測してみると、浸食がほとんど起こっていない地域も存在することが分かった。タイタンの浸食のメカニズムを説明するには他のプロセスを考える必要があるかもしれない。

Microbes on the edge
縁辺部の微生物
Biogeosciences 9, 2431–2442 (2012)
グリーンランド氷床の表面付近に生息する微生物が生物地球化学的にどのような役割を負っているかはあまりよく分かっていない。Leverett氷河の河口から氷床内部に向かって79kmに渡って調査を行い、氷床に空いた穴の氷や水、土壌などの化学分析を行った。氷河の河口付近では微生物がアセチレンを消費している(窒素固定の指標とされる)ことが分かった。しかし河口から7.5km内陸では窒素固定は行われていなかった。窒素固定により生物が利用可能な窒素へと形が変わるため、こうした微生物の働きが氷床の縁辺部での他の生物(微生物、植物など)の活動を支えていることが示唆される。

Minimal ice growth
わずかな氷の成長
Earth Planet. Sci. Lett. 337–338, 243–251 (2012)
過去500万年間西南極氷床の高度はほとんど増加していないことが露出年代より判明した。西南極では降水や雪が多く降った時代には高度は現在と同じか、逆に高度が下がっていたらしい。海面下の基底部における融解が西南極氷床を薄くし、崩壊させる働きを持っていたらしい。

Letters
Seismic imaging of a large horizontal vortex at abyssal depths beneath the Sub-Antarctic Front
K. L. Sheen, N. J. White, C. P. Caulfield & R. W. Hobbs
南大洋の海洋循環が全球の気候に与える影響は大きい。しかしながら南大西洋の亜熱帯域においてNADWとACCの海水の海水交換はよく分かっていない。音波探査によって水柱の熱塩構造を調べたところ、表層2.5kmでは海水交換はほとんど無視できる程度にしか起こっていないが、2.5kmよりも深いところでは幅10kmほどの渦巻き構造が確認された。この渦は水平方向に平均0.3±0.1 m/sで回転しており、貫入(intrusion)か転覆(overturning)のいずれかによって引き起こされていると考えられる。
Sheen et al. (2012)を改変。
南大洋の大西洋セクターにおける海水混合の模式図。高密度のNADWと相対的に低密度の南大洋の海水が複雑な物理メカニズムで混合している。

Global rates of water-column denitrification derived from nitrogen gas measurements
Tim DeVries, Curtis Deutsch, François Primeau, Bonnie Chang & Allan Devol
ほとんどの海洋において生物的に利用可能な窒素の量が光合成植物プランクトンの成長を制限している。しかしながら窒素が脱窒を行うバクテリアによって海洋から除去される過程はよく分かっていない。外洋の貧酸素の海域における気体の窒素の挙動をGCMを用いて再現。全球の水柱における脱窒の速度は66 ± 6 TgN/yrと見積もられた。さらに堆積物と海水から窒素が失われる速度は同位体の情報から合計で230 ± 60 TgN/yrと見積もられた。全体として20 ± 70 Tg/yrの速度で窒素が失われており、ほとんど平衡に達していると見なすことができる。
DeVries et al. (2012)を改変。
研究対象となった貧酸素水塊が存在する海域と海水のN2の観測値が存在する地点(赤)。

Reduction in carbon uptake during turn of the century drought in western North America
Christopher R. Schwalm, Christopher A. Williams, Kevin Schaefer, Dennis Baldocchi, T. Andrew Black, Allen H. Goldstein, Beverly E. Law, Walter C. Oechel, Kyaw Tha Paw U & Russel L. Scott
化石燃料の二酸化炭素放出をさておくと、北米は二酸化炭素の吸収源となっている。近年の地球温暖化に伴い、干ばつなどを含む異常気象の頻度や程度が増している。面積あたりの二酸化炭素の吸収能は2000年から2004年の間、30 - 298 PgC/yrの割合で低下したことが再解析データとリモセンのデータから分かった。過去には800年前に同様の規模の干ばつが起きていたらしい。また将来の降水量と干ばつの程度の予測に基づくと、北米西部の二酸化炭素吸収源は今世紀末には完全に無くなってしまうかもしれない。

Hydrologic cycling over Antarctica during the middle Miocene warming
Sarah J. Feakins, Sophie Warny & Jung-Eun Lee
20-15Maの間は全球的に温暖であり、南極氷床は成長から後退へと転じた。西南極・東南極氷床ともに後退したと考えられている。15.7Maには南極沿岸に既に植生が存在したと考えられているが、植生を支えた水循環はよく分かっていない。Ross海で採取された堆積物コア中の葉のワックス(leaf wax)のdDと花粉分析とモデルシミュレーションを組み合わせて中新世中期の南極の植生、気温、降水量を復元。dDは20-15.5Maに現在よりも降水量が多かったことを示唆しており、その際に植生も豊かで、特に16.4-15.7Maに繁栄していたと考えられる。夏の気温は現在よりも11℃高く、南大洋からの水蒸気の運搬も増加していたようである。

Articles
Localized subduction of anthropogenic carbon dioxide in the Southern Hemisphere oceans
Jean-Baptiste Sallée, Richard J. Matear, Stephen R. Rintoul & Andrew Lenton
人為起源の二酸化炭素排出のうち25%は海に吸収されており、そのうち40%が南大洋の40ºSよりも高緯度の海域において吸収されている。この二酸化炭素の吸収が気候変動を緩和していると考えられる。吸収速度を決めるのは表層海水から海洋内部へと炭素が輸送される過程(沈み込み;subduction)であるが、その物理メカニズムはよく分かっていない。海洋観測から、南大洋の35ºSと海氷の張り出す南限までの海域における沈み込み量は0.42 ± 0.2 PgC/yrと見積もられた。この沈み込みは風によるエクマン輸送・渦フラックス・混合層の深さの変動の相互作用の結果として生じていると考えられる。海洋の炭素吸収は種々の海洋物理過程に強く依存しており、気候変動や気候変化にも敏感である可能性があると結論づける。
Sallee et al. (2012)を改変。
人為起源の二酸化炭素が沈み込み、貯蔵されている水塊の場所を示したもの(赤)。縦軸は海水密度で表現した深度、横軸は経度。南大洋のインド洋セクターで非常に多くの炭素が溶け込んでいる。

海洋酸性化の現状(海洋化学の視点から)

Ocean Acidification -Present Conditions and Future Changes in a High-CO2 World-
Richard A. Feely, Scott C. Doney and Sarah R. Cooley
Oceanography vol. 22 No. 4 (December 2009)
より。

海洋酸性化によって海水のpHと炭酸イオン濃度が低下すると、炭酸塩の飽和度(Ω)が低下し、炭酸塩の殻(や骨格)を作る生物に負の影響を及ぼすことが知られている。

2012年8月3日金曜日

新着論文(Science#6094)

Science
VOL 337, ISSUE 6094, PAGES 497-612 (3 August 2012)

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Special Issue
Black Holes
'ブラックホール特集'

INTRODUCTION
Inescapable Pull
Maria Cruz

Perspectives
Classical Black Holes: The Nonlinear Dynamics of Curved Spacetime
Kip S. Thorne

Quantum Mechanics of Black Holes
Edward Witten

Reviews
Stellar-Mass Black Holes and Ultraluminous X-ray Sources
Rob Fender and Tomaso Belloni

The Formation and Evolution of Massive Black Holes
M. Volonteri

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News of the Week
Fracking Report Under Scrutiny
Frackingの報告書が精査されている
fracturing(シェールガス採掘の際に水を地中に注入すること)のリスクと恩恵についての分析がなされている。報告書では地下水の汚染はないとしている。アメリカ地質調査所の前の所長で、現在はテキサス大のエネルギー研究所の副所長を務めているCharles “Chip” Groatはfrackingをする企業の相談役という立場もあるため、議論には参加していない。またテキサス大の副学長であるSteven Leslieは、独立した機関にレビューをしていただきたいという声明を出した。

Poor Review for Biofuels
バイオ燃料に対する貧弱なレビュー
ドイツの学術会議は作物をバイオ燃料とすることに頑に反対している。7/26に公表された20人の専門家による報告書では、バイオ燃料は持続可能なエネルギー資源への移行の中ではわずかな寄与しかしないと結論づけた。バイオ燃料は多くの土地を必要とし、より多くの温室効果ガスを排出するため、他の持続可能エネルギー(太陽光発電、太陽熱、風力など)に比べて環境への負荷が大きいとしている。

First Light for HESS II
HESSⅡへの最初の光
ナミビアに2004年に建設されたHESSⅠ望遠鏡の後継機であるHESSⅡ望遠鏡(鏡はテニスコート2面分の大きさがあり、4倍の解像度)が先週初めて宇宙空間から地球にやってくる高エネルギーの光子を捉えた。厳密には宇宙そのものを見ているのではなく、地球大気と高エネルギーのガンマ線が大気の上層で衝突した際に出てくるCherenkov放射というものを観測しているらしい。宇宙物理学者はこうした高エネルギーのガンマ線はブラックホールや超新星爆発、パルサーなどから放出されていると考えており、この望遠鏡がその理解に貢献してくれると期待されている。

Raindrops Keep Falling on My ...
雨は私の…の上に落ち続ける
中国に生えるランの一種であるAcampe rigidaの繁殖能力の高さが疑問とされていたが、この植物は昆虫に受粉を頼るのではなく、自分自身で受粉を行う能力を身につけているらしい。4年間に渡る野外調査と飼育実験から、この植物が雨を利用して精子の入った包のうをめしべに運んでいることが分かった。他の植物も同様に雨を利用して受粉をするものがあると考えられるが、このランが初めてそうした行動を証明した。

Earth Keeps Sucking Up Greenhouse Gases
地球は温室効果ガスを吸い続けている
化石燃料の燃焼によって排出される二酸化炭素のうち、およそ半分は海や植物、土壌によって吸収されている。こうした吸収がなければ現在の温室効果はより加速するだろう。温暖化は植物の炭素固定を阻害し、研究者の中にはこうした炭素吸収が将来遅くなるのではないかと危惧するものもいる。しかしながら、今週Natureにて発表された研究ではこの炭素吸収はうまく機能していることを報告している。人間活動によって放出された二酸化炭素のうち55%は吸収されており、人間の排出のペースに追いついている吸収量は1960年に比べて2倍に増えた。しかし将来この吸収がどうなるかは分からない

By the numbers
数字から
15.4% アメリカにおいてHIVに感染した男性とセックスをする男性の割合
53カ国 2020年までに低収入から中程度の収入になると予想されている国の数
時速104km チーターが走る速度、アヒルが飛ぶ速度

News & Analysis
NASA's Spacefaring Science Chief Sets a New Course for Mars
NASAの宇宙旅行科学の主任が火星への新たな航路を作る
Yudhijit Bhattacharjee
8/5に予定されている火星探査機「キュリオシティー」の火星への着陸に先立って行われた、NASAの科学主任であるJohn Grunsfeldへのインタビュー。

Ice Age Tools Hint at 40,000 Years of Bushman Culture
氷河期の道具がブッシュマン文化の4万年間の歴史をほのめかす
Michael Balter
南アフリカで考古学者が44,000年前の人工物を発見した。狩猟採集民族によって使用されたものに似た骨の道具や毒矢などが含まれる。

Perspectives
How Did the Cuckoo Get Its Polymorphic Plumage?
どのようにしてカッコーは多形の羽毛を獲得したのだろう?
Johanna Mappes and Leena Lindström
ヨシキリ(小鳥)は小型のタカを真似ることでカッコーの脅威から身を守るが、別の色をしたカッコーの脅威にはさらされ続ける。

RETROSPECTIVE: F. Herbert Bormann (1922–2012)
懐古:F. Herbert Bormann
Lars O. Hedin
生態学者が大きなスケールで河川流域を集中的に研究していたことが森林への人間活動の脅威を知る際に重要な役割を負っていた。

Reports
Kepler-36: A Pair of Planets with Neighboring Orbits and Dissimilar Densities
Joshua A. Carter, Eric Agol, William J. Chaplin, Sarbani Basu, Timothy R. Bedding, Lars A. Buchhave, Jørgen Christensen-Dalsgaard, Katherine M. Deck, Yvonne Elsworth, Daniel C. Fabrycky, Eric B. Ford, Jonathan J. Fortney, Steven J. Hale, Rasmus Handberg, Saskia Hekker, Matthew J. Holman, Daniel Huber, Christopher Karoff, Steven D. Kawaler, Hans Kjeldsen, Jack J. Lissauer, Eric D. Lopez, Mikkel N. Lund, Mia Lundkvist, Travis S. Metcalfe, Andrea Miglio, Leslie A. Rogers, Dennis Stello, William J. Borucki, Steve Bryson, Jessie L. Christiansen, William D. Cochran, John C. Geary, Ronald L. Gilliland, Michael R. Haas, Jennifer Hall, Andrew W. Howard, Jon M. Jenkins, Todd Klaus, David G. Koch, David W. Latham, Phillip J. MacQueen, Dimitar Sasselov, Jason H. Steffen, Joseph D. Twicken, and Joshua N. Winn
太陽系においては惑星の組成は太陽からの距離に依存して変化する。例えば、内側には岩石状の惑星(金星、地球、火星など)、外側には低密度のガス状の惑星(木星、土星など)が存在する。しかしこのパターンは宇宙全体で普遍的という訳ではないようで、惑星は形成後もその軌道を大きく変化させる可能性がある。ケプラー宇宙望遠鏡が、非常に密接した軌道を周回しているスーパー地球と海王星に似た系外惑星を発見した。軌道はわずかに10%しか違っていないが、密度差は8倍もの違いがある。太陽系の惑星と比較しても20倍近接して周回しており、密度差も大きい。

A Reversible and Higher-Rate Li-O2 Battery
Zhangquan Peng, Stefan A. Freunberger, Yuhui Chen, and Peter G. Bruce
リチウムイオン電池の能力を遥かに凌ぐ「リチウム-空気」電池は理論的には実現可能で、非常に大きな関心が寄せられていた。課題は陽極のリチウム酸化物を効率良く酸化・還元して繰り返し再生可能にすることであったが、電解液にジメチルスルホン酸を使用し、陽極に多孔性の金を使用することで解決した。100回の繰り返し充電でエネルギーロスはわずか5%に抑えることができた。また陽極でのリチウムの酸化速度は、従来の炭素を用いた陽極の酸化速度の10倍であることも分かった。

Aerosols from Overseas Rival Domestic Emissions over North America
Hongbin Yu, Lorraine A. Remer, Mian Chin, Huisheng Bian, Qian Tan, Tianle Yuan, and Yan Zhang
多くのエアロゾルの大気中の滞留時間は大陸間の横断を可能にするほど長い。つまり遠隔地の大気汚染や気候変動に寄与する可能性があるということを意味する。北米で観測されるエアロゾルの約半数は海を越えてもたらされたものであり、国内でのエアロゾル排出のみを削減してもその悪影響を減らすことはできない。主にアジアからもたらされるダストが主要素で、これらは燃焼によって生じたものではなく、乾燥地から舞い上がったものであるらしい。急速に発展するアジア地域で工業によって発生するエアロゾルを削減したとしても、気候状態の変化や砂漠化の影響でダストの排出量は増加してゆくかもしれない。

Aerial Photographs Reveal Late–20th-Century Dynamic Ice Loss in Northwestern Greenland
Kurt H. Kjær, Shfaqat A. Khan, Niels J. Korsgaard, John Wahr, Jonathan L. Bamber, Ruud Hurkmans, Michiel van den Broeke, Lars H. Timm, Kristian K. Kjeldsen, Anders A. Bjørk, Nicolaj K. Larsen, Lars Tyge Jørgensen, Anders Færch-Jensen, and Eske Willerslev
地球温暖化がグリーンランドの氷床を融解させ、海水準を上昇させると危惧されている。特に南西部の融解は顕著である。過去の空中写真を用いて1980年代半ば以降の氷床縁辺部の厚みを復元。1985-1993年、2005-2010年という2つの時期に特に多くの融解が北西部で起きていたらしい。表面での質量の変化というよりは、ダイナミックな氷床流出のイベントが原因と考えられる。こうした氷床の振る舞いが、徐々に上昇する気温に対してグリーンランド氷床がどう応答するかの予測を難しくしている

2012年8月2日木曜日

新着論文(Nature#7409)

Nature
Volume 488 Number 7409 pp5-124 (2 August 2012)

Research Highlights
Blind mice can sense light
盲目のマウスが光を感じることができる
Neuron 75, 271–282 (2012)
網膜の光を感じる細胞が生成されず、盲目となってしまう病気(retinitis pigmentosa)のマウスに対して、AAQと呼ばれる分子(健康なマウスの細胞から採取したもの)を盲目のマウスの網膜に注射したところ、光に反応する動作が見られたという。

Skin bacteria boost immunity
肌のバクテリアが免疫を強化する
Science http://dx.doi. org/10.1126/science.1225152 (2012)
ほ乳類の腸に生息する細菌類が免疫に重要な役割を負っているのと同様に、肌に住む細菌類も免疫を高める作用があるらしい。肌に微生物を飼うマウスと飼わないマウスで実験したところ、前者の方が免疫を刺激する分子が多く生成されることが分かった。また肌に寄生生物を感染させたところ、後者の方が肌の単位面積あたりの寄生生物数が多くなったという。

Rechargeable Li–air battery
再充電可能なリチウム-空気電池
Science http://dx.doi. org/10.1126/science.1223985 (2012)
リチウムイオン電池のエネルギー保有力を凌ぐ能力を持つ「リチウム-空気」電池は100回の再充電の後も最初の95%のエネルギー保有力を維持するらしい。空気中の酸素との化学反応を利用して発電する方法らしく、リチウム電池のように酸化剤を必要としない。電解液にジメチルスルホキシド、陽極に多孔性の金を使用することで、副反応も抑えられるらしい。

Sex is costly for squid
イカにとってSEXは高くつく
Biol. Lett. http://dx.doi. org/10.1098/rsbl.2012.0556 (2012)
イカの交尾は3時間にも及び、エネルギーを非常に消費するため捕食の危険が高まるとともに、食料探しの時間も割かれる。水流を調整できる水槽内でイカの一種(dumpling squid ;Euprymna tasmanica)の交尾の前後で泳ぐ能力を調べたところ、明らかに交尾後の方が体力が半分に落ちたが、30分で回復したという。イカの乱交などの生殖行動の進化の理解に繋がる可能性がある。

Hunter-gatherer genes
狩猟採集民族の遺伝子
Cell http://dx.doi.org/10.1016/j.cell.2012.07.009 (2012)
カメルーンのPygmie族とHadza族、タンザニアのSandawe族の遺伝子を調べたところ、非常に多くの違い(高い多様性)が見られた。これはそれぞれの種族が地域的な環境下で独立に進化してきたことを物語っている。そのルーツは今は絶滅してしまった種に行き着くらしいが、こうした特徴はアフリカ以外の種族によく見られる特徴で、様々な種族間での交配が一般的であったことを示唆している。

Aerosols keep down monsoon rain
エアロゾルがモンスーンの雨を弱める
J. Geophys. Res. http://dx.doi.org/10.1029/2012JD017508 (2012)
エアロゾルが南アジアのモンスーンの時期の降水量を減らしている。解像度を落とした大気-海洋循環モデルを用いてシミュレーションを行ったところ、ブラックカーボンといったエアロゾルが太陽光を吸収し、雲被覆を減らす効果によって、モンスーン性の降水が減少することが分かった。またこのエアロゾルは南アジアから排出されるものだけでなく、より遠くから運ばれてくるものも寄与しているという。森林火災や野火が減少している北西インドのみ逆に降水量は増加したという。

Seven days
India curbs tiger tourism
インドはトラの観光を減らす
インドの最高裁判所は観光客に対し絶滅が危ぶまれている約40頭のトラが棲息しているインド中部へのトラ観光を禁止する法案を仮決定した。8/22に見直されるらしい。インドには約1,700頭の野生のトラが生息しており、世界の頭数の半分を占めるらしい。

Greenland melt
グリーンランドの融解
NASAの衛星観測から、先月のグリーンランド氷床の表層での融解量が非常に大きかったことが分かった。観測は限られているものの、特に7/8-12にかけては過去数10年間で最大の融解であった。氷床全体の40%ほどが現在融解しつつあるが、この時は全体の97%が融解していたという。しかしこれは自然の変動の中にあるようで、アイスコアの記録からは150年に1回の割合で繰り返し起きているらしい。前回は1889年に起きていた。

Warming redux
温暖化の復古
The Berkeley Earth Surface Temperature (BEST)は最新の地球表層の温度上昇の推定値を公開した。人為的な影響によってここ250年間で温暖化しているという結論であったが、それ自体は気候学者にとっては新しい事実ではない。それよりも問題であったのは、この結果がピアレビューされる前に公表されたことである。雑誌にはまだ結果は載っていないが、オンライン版には去年の10月に結果が投稿されてしまっていた。

Antarctica upgrade
南極のアップグレード
砕氷船Polar Star icebreakerなどの南極研究の施設設備は修繕が必要らしい。アメリカの南極プログラムは予算の6%ほどを科学研究費から削減し、インフラの整備に充てることを計画している。しばらくは整備に予算と時間ともに割かれるが、修繕後は元のバランスに戻される。

Nuclear safety
核の安全性
日本の新しい原子力保安委員会は原子物理学者の田中俊一氏がトップに立つことになった。田中氏は上・下院議員によって推薦され、9月に設立予定の新しい委員会は環境省に属することになる。しかし原子力産業寄りすぎるため、健康被害を軽視してしまうのではないかとする批判も存在する。

Museum head
博物館の館長
スミソニアン博物館の次の館長が「Kirk Johnson」に決定した。彼は現在デンバーの自然博物館の首席学芸員を務めており、白亜紀の植物化石が専門の地質学者である。現在館長を務めるCristián Samperは来年1/23にニューヨークの自然生物保護協会の会長になることが決まっている。

News in Focus
7 minutes of terror
7分間の恐怖
Eric Hand
8/6 UTC05:24におよそ8ヶ月に渡って旅を続けていた火星探査機が火星に降り立つ瞬間を迎える。技術向上によって目標地点から20km半径内に着陸できる見込みであるという。Galeクレーターに降り立った地上探査機ローバーは5.5kmもの横たわった地層を横断し、火星の歴史を数億年分遡り、火星に生命がいたのかどうかを調査する。ローバーは重量が900kgと重すぎるため、従来のエアバック式の着陸方式ではなく、クレーンでつり下げるシステムを採用している。探査機と火星の環境を綿密にモデリングして、失敗率はわずか1.7%と見積もられている。

Comment
Let academia lead space science
アカデミック界に宇宙科学を牽引させよ
NASAはより多くの予算を13の原理科学ミッションに割くべきだ、とDaniel N. Bakerは言う。

Correspondence
Improve access to sanitation in China
中国の公衆衛生へのアクセスを改善する
先月中国の飲料水の環境基準は引き上げられたが、公衆衛生の改善も同様に期待する。インドと同じく、急速に発展する国においては公衆衛生が追いついていない。WHOの調査によると(WHO/ UNICEF Progress on Drinking Water and Sanitation, 2012)、中国の36%の人々はろくに公衆衛生(水洗トイレなど)へのアクセスがない。中国の統計からは都市部で74%、地方で56%がこうしたアクセスがないとされているが、数字は食い違っている。都市部では73%の下水整備がされているが、地方の下水の95%はそのまま河川や湖に流入している。

Bat deaths from wind turbine blades
風力発電のプロペラが招くコウモリの死
プロペラ回転によって生じる気圧差によってコウモリが死ぬこと(barotrauma仮説)を想像するかもしれないが、こうした死に方は非常に稀である。コウモリの死骸の傷などを詳細に調査すると、プロペラそのものによる外傷が死因の主要因である。

News & Views
An insect to fill the gap
溝を埋める昆虫
William A. Shear
デボン紀の完全な昆虫化石の候補の発見が昆虫の進化に対する知識を飛躍的に向上させるかもしれない。

The balance of the carbon budget
炭素収支のバランス
Ingeborg Levin
注意深い解析から、人為起源の二酸化炭素を自然が吸収する割合はここ50年間で2倍になったことが明らかになった。しかし陸上と海によってそれぞれどれほどの炭素が吸収されたかは未だ不確かなままである。
大気中の二酸化炭素濃度(青)は、人間が出した二酸化炭素(赤)のうち、陸や海によって吸収された分(緑)を差し引いたものになります。

Letters
Increase in observed net carbon dioxide uptake by land and oceans during the past 50 years
A. P. Ballantyne, C. B. Alden, J. B. Miller, P. P. Tans & J. W. C. White
全球の炭素循環の理解は将来の気候変動に対する予測能力を高めることが期待される。人為起源の二酸化炭素排出のうち約半分が陸と海によって吸収されていると考えられているが、将来この二酸化炭素吸収が減少すると予測されており、それは大気に残留する二酸化炭素が増えるということを意味する(正のフィードバック:温室効果を加速させる)。世界中の大気中の二酸化炭素濃度の測定データから、ここ50年間の二酸化炭素の放出源・吸収源を質量収支計算したところ、年々吸収量が0.05PgC/yrの割合で増加しており、1960年の吸収量が2.4±0.8PgCであったのに対し、2010年の吸収量は5.0±0.9PgCとほぼ倍増したことが分かった。これは1959年以来排出されてきた人為起源の二酸化炭素のうち55%は陸と海によって吸収されており、またこうした吸収源の吸収能力は減少していないことを意味する。この吸収メカニズムの理解と吸収場所の特定が現在の炭素循環研究にとって非常に重要な課題である。
Ballantyne et al. (2012)を改変。
1960年以降の二酸化炭素の放出量(青)
化石燃料の燃焼起源の二酸化炭素(赤)
森林破壊起源の二酸化炭素放出量(黄)
自然の炭素吸収量(黒)
※補足
この海による吸収分が’海洋酸性化’を招いています。この研究では大気中の二酸化炭素濃度から海洋の吸収分を見積もっていますが、海洋観測によって直接吸収量が見積もられており、およそ25-30%と報告されています。見ているものは基本的には同じ二酸化炭素です。

Persistent near-tropical warmth on the Antarctic continent during the early Eocene epoch
Jörg Pross, Lineth Contreras, Peter K. Bijl, David R. Greenwood, Steven M. Bohaty, Stefan Schouten, James A. Bendle, Ursula Röhl, Lisa Tauxe, J. Ian Raine, Claire E. Huck, Tina van de Flierdt, Stewart S. R. Jamieson, Catherine E. Stickley, Bas van de Schootbrugge, Carlota Escutia, Henk Brinkhuis & Integrated Ocean Drilling Program Expedition 318 Scientists
過去6500万年間における最も温暖な気候は始新世初期(約5500万~4800万年前)に起こり、当時は赤道と極の間の温度勾配が今日よりもずっと小さく、大気中の二酸化炭素濃度は単位体積当たり1,000 ppmを超えていたと推定されている。しかし、始新世初期の温暖化した世界の気候状態については南極においてはほとんどわかっていない。東南極のウィルクスランド沖で採取された海洋堆積物コアから得られた生物的な気候の間接指標(花粉・胞子)と有機地球化学的な間接指標(TEX86)は、ウィルクスランド沿岸(古緯度で南緯約70度)の低地環境がヤシやパンヤ亜科を含む、温帯から熱帯の植物相で特徴付けられる、きわめて多様で熱帯林に似た森林であったことを示唆している。冬は非常に温暖で(10℃以上)、極夜の存在にもかかわらず霜が降りなかった程度であったと考えられる。

Universal species–area and endemics–area relationships at continental scales
David Storch, Petr Keil & Walter Jetz
種や固有種の数が面積とともにどう変化するかは、概念および応用面に幅広く関連するが、これらのパターンの分類群や地域を超えた普遍性や浸透性に関する理解は進んでいない。世界の主要な大陸にわたる両生類、鳥類、および哺乳類で指数関数的な関係性が見いだされた。

A complete insect from the Late Devonian period
Romain Garrouste, Gaël Clément, Patricia Nel, Michael S. Engel, Philippe Grandcolas, Cyrille D’Haese, Linda Lagebro, Julien Denayer, Pierre Gueriau, Patrick Lafaite, Sébastien Olive, Cyrille Prestianni & André Nel
陸上進出以降、節足動物および脊椎動物の多様化は2つの異なる段階で生じたと考えられている。その第一は、シルル紀からフラスニアン期(デボン紀後期)(4億2500万~3億8500万年前)であり、第二は、多数の新しい主要分類群の出現を特徴とする石炭紀後期(3億4500万年前以降)である。この2つの多様化の時期は、脊椎動物の化石が少ない時期を囲む形になっているが、こうした空白期は生物そのものが存在しなかったことを示しているというよりは、保存がなされなかった結果だと考えられる。デボン紀後期の地層から発見された最古の昆虫化石は、この昆虫が陸棲種で、「直翅目様」の大顎は雑食型であったことを物語っている。この化石が節足動物・脊椎動物の多様化に対する知見を与えてくれるだろう。

2012年8月1日水曜日

新着論文(GRL)

GRL
16 May 2012 - 31 May 2012

Biological response to the 1997–98 and 2009–10 El Niño events in the equatorial Pacific Ocean
Gierach, M. M., T. Lee, D. Turk, and M. J. McPhaden
エルニーニョが赤道太平洋の東部と中部に与える影響は異なる。人工衛星による観測データと海洋の逆解析データを用いて1997/98年と2009/10年に発生したエルニーニョが中部と東部の生物に与えた影響を評価。中部では水平方向の輸送が表層のクロロフィル量(つまり植物プランクトンの一次生産量)を決めているらしい。一方で東部では鉛直方向の移流と混合が支配的な駆動力。

World ocean heat content and thermosteric sea level change (0–2000 m), 1955–2010
Levitus, S., J. I. Antonov, T. P. Boyer, O. K. Baranova, H. E. Garcia, R. A. Locarnini, A. V. Mishonov, J. R. Reagan, D. Seidov, E. S. Yarosh, and M. M. Zweng
これまでに得られた海洋観測のデータを用いて1955-2010年までの最新の海洋の熱含量と熱膨張による海水準の変化を報告する。海洋の0-2,000 m深の熱含量は24.0±1.9×10^22 Jで増加している。これは体積平均で0.09 ℃の上昇に相当する。一方で0-700 m深は0.18 ℃上昇している。1955年以来起きてきた地球温暖化のうち、93%の熱は海洋によって吸収されている。熱膨張に伴う海水準上昇の寄与は、0-2,000 m深が0.54±0.05 mm/yr、0-700m深が0.41±0.04 mm/yrと計算される。
Levitus et al. (2012)を改変。
1955年以降、海水が吸収してきた熱の変化。観測の密度もArgoの登場により飛躍的に上がってきた。

Impacts of the production and consumption of biofuels on stratospheric ozone
Revell, L. E., G. E. Bodeker, P. E. Huck, and B. E. Williamson
化石燃料に変わる代替燃料としてバイオ燃料(biofuel)が注目されている。しかしながら、バイオ燃料になる作物を育てる際の肥料から発生する大きな二酸化窒素(N2O)排出が、それ自身が温室効果ガスとして温暖化に寄与するだけでなく、成層圏にてオゾンを破壊するという問題がある。21世紀に化石燃料からバイオ燃料に社会経済が大きくシフトするというシナリオの下で、オゾン層の二酸化窒素による破壊量を推定。2つの重要なメカニズムが存在していることが分かった。一つは二酸化窒素が直接オゾンを破壊する化学反応を起こすこと(NOx-cycle)、もう一つは温暖化抑制によって成層圏の寒冷化が’逆に’抑制され、よりオゾンが破壊されやすい状態が実現すること。従って、二酸化窒素排出量を無視して二酸化炭素だけを削減するのはオゾン層を傷つける可能性がある

On the sub-decadal variability of South Atlantic Antarctic Intermediate Water
McCarthy, G. D., B. A. King, P. Cipollini, E. L. McDonagh, J. R. Blundell, and A. Biastoch
Argoの観測データから大西洋南部のAAIWの塩分変動がゆっくりと西へ伝播しており(2.3 cm/s)、さらに数十年スケールの変動が見られることが分かった。温度や密度の変化は見られない。40年間のモデルシミュレーションでもこの塩分変動の伝播は再現されることから、普遍的な事象であると考えられる。移流よりはむしろ惑星波動によってもたらされている可能性がある。

The natural greenhouse effect of atmospheric oxygen (O2) and nitrogen (N2)
Höpfner, M., M. Milz, S. Buehler, J. Orphal, and G. Stiller
大気中に多く含まれる酸素と窒素はともに温室効果ガスとしては働かないと考えられているが、地球の長波放射のうち、晴れた日には酸素と窒素がそれぞれ0.11, 0.17W/mの放射を吸収していることが分かった。これはメタンによる放射吸収の15%に相当する。一方で乾燥した南極ではそれぞれの吸収は平均してメタンによる放射吸収の38%にも達し、水蒸気の吸収バンドが干渉しない(乾燥しているため)ことが理由として考えられる。


Dynamics of east-west asymmetry of Indian summer monsoon rainfall trends in recent decades
Konwar, M., A. Parekh, and B. N. Goswami
インドにおける30年間の降水量の観測記録から、インド半島の東西で中〜小程度の降水に非対称性があることが分かっている。西部ではこうした降水はアラビア海からもたらされる水蒸気の影響で増加傾向にあるが、一方でベンガル湾では減少傾向にある。ともに低層の風速と水蒸気量が降水をコントロールしていると考えられる。

Tropical cyclone intensification trends during satellite era (1986–2010)
Kishtawal, C. M., N. Jaiswal, R. Singh, and D. Niyogi
全球の人工衛星を用いた観測データから、熱帯低気圧が強化されている傾向があることが分かった。北西太平洋と北インド洋を除いて、有為な上昇傾向が見られた。25年前に比べると、風速が64ノットから104ノットに上昇する(つまり熱帯低気圧が成長する)時間は9時間早くなっているらしい。北大西洋では20時間も早くなっているらしい。

Local and remote controls on observed Arctic warming
Screen, J. A., C. Deser, and I. Simmonds
北極は全球平均よりも2-4倍早く温暖化している。その原因として地域的な影響(海氷の後退など)と遠隔的な影響との相対的な割合が議論されている。対流圏の大気観測と大気大循環モデルとを組み合わせて温暖化の原因を調査したところ、3つの要素の関与が確認された。1)海氷量とSST変動、2)遠隔地のSST変動、3)温室効果ガス・オゾン・エアロゾル・太陽放射による直接放射強制力。1)の効果は表層付近に、2)の効果は大気上層に、3)の効果は夏の温暖化にそれぞれ寄与しているらしい。

Impact of Arctic sea-ice retreat on the recent change in cloud-base height during autumn
Sato, K., J. Inoue, Y.-M. Kodama, and J. E. Overland
Chukchi海とBeaufort海で海氷のない秋に行われた大気観測(雲高計とラジオゾンデ)のデータと、以前行われた海氷がある時期の観測(1998年)とを比較したところ、500mよりも雲頂高度が低い低層雲の出現頻度が30%低下していることが分かった。接地境界層の状態の変化が原因として考えられる。海氷後退に伴う海氷面からの高い熱輸送が対流圏下層の温暖化に貢献している可能性がある。


Estimating the contribution of monsoon-related biogenic production to methane emissions from South Asia using CARIBIC observations
Baker, A. K., T. J. Schuck, C. A. M. Brenninkmeijer, A. Rauthe-Schöch, F. Slemr, P. F. J. van Velthoven, and J. Lelieveld
夏モンスーン時にはチベット高原に中心を置く低気圧が南アジアに滞留するが、その際に深い対流が起き、大気上層で温室効果ガスであるメタンの濃度が上昇することが知られている。気象データからこの気団はインド由来だと考えられるが、メタンの発生源はよく分かっていない。2008年のモンスーン時には30.8PgCものメタンが観測されたが、うち19.7PgCは生物起源であると推定された。さらにそのうち約3.9PgCは水田由来であると予想されるが、残りの部分はうまく説明できない。湿地の微生物分解起源がかなり寄与している?