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2014年2月28日金曜日

『気候変動はなぜ起こるのか』(ウォーレス・ブロッカー、2013年)

[邦題]
気候変動はなぜ起こるのか〜グレート・オーシャン・コンベヤーの発見
ウォーレス・ブロッカー(川幡穂高ほか 訳)
BLUE BACKS 2013年(¥860)

[原題]
THE GREAT OCEAN CONVEYOR: Discovering the Trigger for Abrupt Climate Change
Wally Broecker
Prinston University Press, 2010

東大大気海洋研究所・川幡穂高 教授とその院生たちが訳した、海洋地球化学の父と言っても差し支えないであろう、W. Broeckerの最近の著書。

W. Broeckerがその発見の立役者となった、大西洋子午面循環をはじめとする全球の熱塩循環と第四紀の気候変動との関わりが、自身の研究者人生を交えて、他の研究者による発見とともに回想的に語られている。




ウォリーの著書の特徴は、科学の発見が淡々と語られるのではなく、ある科学者の人生として語られる点にあると言える。

彼自身はほとんど論文を読まず(メール無精でもあるらしい)、友人との対話や会議で聞いた話から情報を仕入れているという。
そうした彼の気質が著書にもにじみ出ている。


一般の人に、「気候変動のスイッチの一つは大西洋の高緯度にある」と言ってもよく理解してもらえないだろう。

それを説明するのにはかなり多くの時間を費やし、また説明したところで徒労に終わる可能性が高いかもしれない。

地球は海と大気を通じてあらゆる部分で連結しているが、そのキモが実は大西洋(アメリカ大陸とアフリカ大陸の間の海)にある、という話である。

大西洋子午面循環に興味がある人には是非調べていただきたいが、その際に本書はあまりオススメできない、というのが本音である。

本書はかなり専門的で、古気候学を志す大学生・院生には教材として勧められるものの、あまり一般に勧められる内容にはなっていない。


「北米氷床の退氷時に形成されたと考えられているアガシ湖の融水のルート探索、そしてそれが大西洋高緯度の深層水形成に与えた影響」

「ハインリッヒ・イベントとダンシュガード・オシュガー・イベントの違い」

「ハインリッヒ・イベント時のモンスーンや熱帯収束帯の変動様式」

などについて興味を抱く一般の方はそうおられないのでは?

こういったことがまさに僕ら古気候学者(とその卵)を名乗る人間が研究対象としていることの一部ではあるのだが…。


将来古気候学の講義を受け持つことになったら、本書がそのまま使えそうという印象を受けた。