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2014年3月1日土曜日

赤道太平洋の海洋酸性化が初めて報告(Sutton et al., 2014, GBC)

Natural variability and anthropogenic change in equatorial Pacific surface ocean pCO2 and pH
Adrienne J. Sutton, Richard A. FeelyChristopher L. Sabine, Michael J. McPhaden, Taro Takahashi, Francisco P. Chavez, Gernot E. Friederich, Jeremy T. Mathis
Global Biogeochemical Cycles 28, doi:10.1002/2013GB004679 (2014).

海水炭酸系の変動が極めて大きく、海洋酸性化の長期傾向がこれまでほとんど評価できていなかった赤道太平洋の海水炭酸系の初となる報告とその変動要因を議論した論文。


NOAAのM. Mcphaden率いる、赤道太平洋の係留ブイを用いた高時間解像度の多変数連続測定(Tropical Atmosphere Ocean  project / Triangle Trans-Ocean Buoy Network; TAO/TRITON)による海水炭酸系(大気及び海洋の二酸化炭素分圧)の結果が報告された。

TAOは赤道のほぼ直下に東西に並べられた8つの係留ブイの隊列であり、本論文ではそのうちの4つから得られた1998-2011年の観測値(西から、TAO170W, 155W, 140W, 125W)が報告されている。

CDIACのホームページより。太平洋の炭酸系の観測体制。
海水炭酸系を正確に記述するには全炭酸、アルカリ度、pH、pCO2(またはfCO2かΔpCO2)のうち2つを知る必要があるが、係留ブイではpCO2のみが連続測定されているため、アルカリ度は温度と塩分から推定した値を使用している(※)。

ただし、赤道太平洋では温度・塩分・種々の栄養塩濃度が複雑に変動するため、シンプルな経験式でアルカリ度を近似することはやや大胆である。

また、現実には赤道太平洋は栄養塩濃度が高く、生物呼吸や光合成による炭酸系への影響が少なくない。しかしながら、本論文ではそれらの寄与はさほど大きくないとし、議論からは除外している(というよりは評価のしようがないといったところか)。

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※補足
ちなみに、低緯度・高緯度を問わず、海水のアルカリ度は大きく塩分の分布によって支配されている。そのため、これまでの観測から経験的に塩分(と温度)の関数として各海域では近似されることが多い。

それを示した論文が以下の2つで、熱帯域ではむしろ2つめの最近の論文で報告されている、「塩分だけの経験式」の方がよく合うらしい。

Global relationships of total alkalinity with salinity and temperature in surface waters of the world’s oceans
Kitack Lee, Lan T. Tong, Frank J. Millero, Christopher L. Sabine, Andrew G. Dickson, Catherine Goyet, Geun-Ha Park, Rik Wanninkhof, Richard A. Feely, and Robert M. Key
Geophysical Research Letters 33, doi:10.1029/2006GL027207 (2006).

Seasonal variability of aragonite saturation state in the Western Pacific
Mareva Kuchinke, Bronte Tilbrook, Andrew Lenton
Marine Chemistry 161, 1–13 (2014).
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これまで赤道太平洋の炭酸系の報告はR. Feelyが筆頭著者として多数報告がなされているものの、一年の限られた時期に行われる観測船を用いた観測結果がもとになっており、変動がもともと大きな赤道太平洋において、その長期傾向の評価や短周期の変動の原因を探るには係留ブイによる連続観測が不可欠であった。

係留ブイは時折何者かによって破壊されることがあるらしく、これまでにもいくつか修復が必要であったらしい。

アクセス権の関係でここに論文中の図を載せるわけにはいかないが、いくつかの重要事項についてまとめてみたい。

1、pCO2の連続観測
近年、Battelle Memorial Instituteが開発したpCO2の自動観測器が世界各地に配置され、3時間に一度という高時間解像度で観測が行われている。世界50ヵ所の外洋・沿岸・サンゴ礁域に設置されているという。

基本的にガス平衡器は周囲の温度と一致するため、pCO2の報告値は原理上、現場水温の値(pCO2 at in situ SST)に相当する。

2、Feely et al. (2006)による報告結果との違い

Feely et al. (2006)ではpCO2とSSTの間に負の相関があることから(冷たい湧昇水がCO2に富んだ亜表層水を表層にもたらすため)、経験的な関係式が作成されていた。そこから見積もられたpCO2と直接観測の結果にはわずかな差異が認められた。

しかしながら、観測船の場合は異なる実験器具で測定される複数点の観測値の寄せ集めであるのに対し(測定値の補正も必要になる)、係留ブイの場合は定点で行われる同一観測機器の連続測定値であるという意味でそのデータは極めて貴重である(ドリフトの補正や新システムの導入による補正は必要になるであろうが)。

3、ENSOの炭酸系への影響

ラニーニャは赤道太平洋の特に東部の温度躍層を浅くし、亜表層からの冷たく、CO2に富んだ水をもたらす。

そのため特にラニーニャの際にpCO2の上昇とpHの低下が著しく、SSTとの有意な相関も確認された。

しかしほとんどの場合、海水のpCO2は大気のそれを上回り、絶えずCO2の放出源として機能していることはこれまでの研究と同じ結果である。

重要なのは、高時間解像度の観測であることによって、赤道不安定波やENSOの伝播に起因するような、「数m/s」で伝播する東西波が炭酸塩の観測からも捕えられた点である。
今後、SSTやSSSだけでなく、pCO2もまた熱帯域の力学の理解に貢献することが期待される。

さらに、近年東赤道太平洋ではなく、中央赤道太平洋において温度偏差が大きくなるという新たな現象・エルニーニョもどき(El Niño-Modoki)の発生頻度が増しているが、その現象もpCO2の測定から捉えられた。
一説には人為起源の気候変化の一部だとされているものの、観測がまだ十分にはなされておらず、その原因についてはよく分かっていない。

4、海洋酸性化の進行速度と他の海域との比較

今回初めて推定された海洋酸性化の進行度合いは、「-0.0018 ~ -0.00026 pH/yr」で、この値は亜熱帯域(ハワイやバミューダなど)で報告されている値よりも大きく、むしろ酸性化が進行しやすいとされている冷たい高緯度のものに近い。

赤道湧昇は従来かなり深いところからもたらされていると考えられてきたものの、最近では亜熱帯域の浅い部分からも活発にリサイクルされているとされ、効率良く人為起源のCO2を取り込んでいる可能性が指摘されている。

また1998年以降、太平洋数十年規模変動(PDO)のシフトによって赤道太平洋の貿易風が強化され、よりラニーニャ的状態に変化していることもpHの低下に寄与していると思われる(ただし、SSTには明瞭には見えていないらしい)。
このことは近年の”温暖化のハイエタス”は赤道太平洋がラニーニャ的状態であることが原因とする報告とも関連しており興味深い。

さらにpCO2の上昇率は大気のそれよりも大きいため、赤道太平洋はCO2の放出源として寄与し続けている。多くの研究が海洋酸性化の進行とともに海洋の炭素吸収能力が低下すること(ΔpCO2が開いていく)を予測しているが、赤道太平洋についてはあてはまっていない。