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2014年12月17日水曜日

深海・造礁サンゴに対する海洋酸性化の影響(Secretariat of the Convention on Biological Diversity, 2014, 6.1)

Secretariat of the Convention on Biological Diversity (2014). An Updated Synthesis of the Impacts of Ocean Acidification on Marine Biodiversity (Eds: S. Hennige, J.M. Roberts & P. Williamson). Montreal, Technical Series No. 75, 99 pages
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p. 55-58の深海・造礁サンゴに対する海洋酸性化の影響の部分の全訳です。


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熱帯域の珊瑚礁生態系は海の中でもっとも多様性の大きい生息域の一つであり、直接的・間接的にすべての海洋生物種の3分の1を支えている。温かい・冷たい水環境の両方において、イシサンゴは珊瑚礁生態系の重要なエンジニアであり、礁の物理的構造の形成と各栄養段階での栄養塩の交換に貢献している。地域・全球スケールでの生態学的・経済学的な重要性から、海洋酸性化に対する石灰化の応答という点では、サンゴはもっともよく研究されている石灰化生物である。
 よく深海サンゴと呼ばれる冷水サンゴは、世界中の海において発見されており、例えばノルウェーのMARENO計画(www.mareano.no)、アメリカのThe Deep Sea Coral Research and Technology計画、ヨーロッパ・コミュニティーのHERMES・HERMIONE・CoralFISHなどといった国家的なマッピング計画によって生息域の新たな情報がアップデートされている。図6.2は、Lophelia pertusaといった基盤を作る冷水サンゴの分布を示しているが、その他の多くの冷水サンゴ種の分布を代表しているわけではない。多くの冷水サンゴ種は固着し成長するための硬い土台を必要とし、食料が豊かで、卵・精子・幼生をばらまくことができ、老廃物が取り除かれ、堆積物がサンゴ表面を覆わないような強い流れがあるところに一般的に生息している。そのため、海流が最も強い、大陸棚斜面や海山の頂上付近で部分的に見られることが多い。これらの深海生息域は海水炭酸系という点では比較的安定であるとしばしば考えられてきたものの、生息域内・間でかなりの変動が日常的に存在することが最近の発見からわかってきた。
 冷水サンゴ礁システムは、ゴルゴニアン・サンゴモドキ(レース・コーラル)・カイメン・多種多様な魚類と軟体動物を含む、構造的に複雑な環境であることが多く、脆弱な海洋生態系として定義されている。こうした生態系への脅威やダメージは局所的な生物多様性を減じ、多くの生物種にとっての隠れ家探し・エサ獲りの可能性を失わせることに繋がるかもしれない。
 人為起源のCO2が海に取り込まれることによって、アラゴナイト飽和深度およびカルサイト飽和深度の両方がより浅くなりつつある。メキシコ湾など、場所によっては、L. pertusaはすでにアラゴナイト飽和深度が非常に近いところで生息している。今世紀末には多くの深海サンゴが炭酸塩について不飽和の海水にさらされることが予測されている。産業革命以前には95%以上のサンゴがアラゴナイト飽和深度よりもはるかに浅い深度に生息していたと推定されていたが、今世紀末には、たったの30%ほどのサンゴ礁のみが飽和深度よりも浅いところで見られることになるだろう(図6.3)。L. pertusaなどと比較するとゴルゴニアンとサンゴモドキに関しては海洋酸性化への影響があまり研究されていないが、炭酸塩とタンパク質構造に対してはもっと注目する価値がある。
 L. pertusaのような冷水サンゴに対して海洋酸性化がどのように影響するかを研究した限られた証拠からは、予測されるpHの低下は短期的には代謝と成長とを減少させるが、6-12ヶ月にわたる今世紀末に想定されるCO2状態において、L. pertusaの成長量は低下しないことが示されている。しかしながら、これらの長期間におよぶ実験は将来の繁殖に対する影響については何も説明を与えず、L. pertusaといった重要種が、単に一時的に再現された将来の状態に対して耐性があるのか、或いは予測される将来の気候状態でも生き残ることができるのか、については疑問が残されている。アラゴナイト飽和深度よりも下で生きるために増加するエネルギー需要はたいていの場合満たされないため、アラゴナイト飽和深度よりも下に冷水サンゴが現在多く存在しないことからも、将来生き残ることができないことが示唆される。従って、冷水サンゴが炭酸塩飽和深度よりも下で長期的に生き残る可能性は低い。
 エネルギーをふんだんに使うプロセスによって、造礁サンゴは石灰化を行う部位の造骨細胞層内の細胞外pHを上方調整することができるが、そうした調整はサンゴ骨格が生きたサンゴの組織に覆われている部分についてのみ適用することができる。冷水サンゴ礁は生きた部分に埋もれたむき出しの、死んだ骨格がかなりの量を占めていることが多い(図6.4)。そうしたことから、不飽和状態では溶解し始め、生物侵食性のカイメンによってさらに侵食の効率は上がるだろう。従って、将来の状態変化は冷水サンゴの生息域と生物多様性に大きな影響を与える可能性を秘めている。
 温水サンゴに関しては、海洋酸性化に対する応答として成長(総石灰化速度)が減少することを多くの研究が実証している。しかしながら、これは普遍的な応答ではなく、異なる種がpHの低下に対して負の応答・測定可能な応答なし・まちまちな応答を示している。成長段階の効果やサンゴの年齢・サイズの変動性が原因で、サンゴ骨格コアを用いて時間とともにサンゴの成長速度がどのように変化するかを分析することは依然として困難である。さらに、応答は非線形であるかもしれず、”転換点”に達するまで何も応答を示さない可能性もある。
 メタ解析はこうした数多くの研究から得られたデータを合成し、その変動を説明する要素を特定する際にきわめて役に立つ手法であることが分かってきた。こうした分析や他のレビュー研究によって、温水サンゴは海洋酸性化に対して感度が高く、海水のアラゴナイト飽和度とpHの低下に伴いサンゴの石灰化は低下する、という一般的な結論が得られている。しかしながら、どのように、そして何故サンゴの石灰化は海洋酸性化に対して感度が高いのかという点に関して特に大きな疑問が残る。この疑問は石灰化のメカニズムを調べる最近の研究イニシアチブの主題となっており、特に内部のpH調整に焦点が当てられている(図6.5)。
 サンゴが海洋酸性化に対処するための生理学的メカニズムに関する洞察は、生物種間で感度が異なることを説明し、高CO2状態の海で勝者と敗者を予測する助けとなるかもしれない。pHを上方調整する能力は種ごとに大きくばらつくという最近のサンゴ骨格からの証拠と併せて考えると、海洋酸性化状態でのイオン・pHの調整能力は未来の生存を助ける生理学的特性を表しているのかもしれない。あるサンゴ種の石灰化速度の低下に対しては、温度と海洋酸性化が個々に与える影響が単に足し合わされるのではなく、それら二つが相乗的に影響することが示されている。従って、これらの鍵となる生態系の運命を決定するためにも、将来の研究は複合ストレスを考慮しなければならない。
 サンゴの生理学的応答に関するさらなる議論はセクション5.1で、温水サンゴ礁が失われることによる社会経済的な結果はセクション8.2にある。