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2014年12月18日木曜日

ガラパゴス諸島のサンゴ礁・生物侵食・海洋酸性化(Manzello et al., in press, GRL)

Galápagos Coral Reef Persistence after ENSO Warming Across an Acidification Gradient
Derek P. Manzello, Ian C. Enochs, Andrew Bruckner, Philip G. Renaud, Graham Kolodziej, David A. Budd, Renée Carlton andPeter W. Glynn
GRL, in press
より。
ガラパゴス諸島で採取されたハマサンゴの骨格分析から、サンゴ礁の生物侵食・礁形成と海水の温度・pH・栄養塩濃度との関係について考察。



ガラパゴス諸島のサンゴ礁は、非常に特異的な環境に存在する。
ほぼ赤道直下にありながら、栄養塩濃度が高く、水が冷たいために、サンゴ礁が形成されるほど石灰化量が大きくない。その結果、さかんに生物侵食が起きる。
ガラパゴス諸島における石灰化量は、生物侵食(特にウニ類)が重要な制御要因となっている。

1982-1983年に生じたエルニーニョの際には表層水温が平年値よりも3〜4℃上昇した状態が2ヶ月にわたって継続し、大規模な白化現象と侵食が起きた。
多くの研究が礁の侵食を研究してきたが、サンゴが死滅したのち10年内に礁が完全に消失してしまったという点で、ガラパゴス諸島は極めて特異的な例といえる。
このイベントの際、南部の塊状ハマサンゴは生き残ったが(ただしかなりの骨格基盤への影響が見られた)、一方で北部・南部ともにハナヤイシサンゴ類は消滅してしまった。

温暖化・海洋酸性化が生物侵食と礁形成にどのような影響を及ぼすかを調べるために、筆者らはガラパゴス周辺海域の海水の炭酸系とハマサンゴ骨格の成長量・密度・P/Ca比(海水中のリン酸濃度の間接指標)を測定した。

北部の島々は北赤道回帰流(NECC)を起源とする温かい水の影響を強く受けており、pHは8.02、アラゴナイト飽和度(Ω)は3.3程度。
一方の南部の島々は、ペルー海流(沿岸湧昇)の水平移流や、赤道潜流(EUC)が諸島にぶつかる際に生じる湧昇の結果、冷たく栄養塩に富んだ水の影響を受けており、pHは7.9〜8.0、Ωは2.4〜3.0。

ハマサンゴ(Porites lutea)の過去15年間にわたる年間の骨格成長量・石灰化量(密度はCTで推定)の復元によると、低下の傾向が顕著で(ただし、2007-2011年のばらつき大)、有意な低下傾向が確認された。
現在の低下傾向を線形的に近似すると、2023〜26年には骨格成長量がゼロになるらしい。
ただし、それまでに生理学的な耐性の閾値(白化など)を超えないという条件つき。

骨格成長速度や密度は北部・南部すべてのサイトで有意に異なることが分かった。
湧昇に強く影響を受け、Ωが低い南部の島において、予想される成長速度(インド・太平洋域全体の記録のコンパイルで、温度との間に正相関があることを利用)よりも大きな成長速度が確認された。一方で、密度は予想よりも30%以上低いことも分かった(+もっとも低い値)。

ハマサンゴに対しては、パプアニューギニアのCO2湧出サイトでは骨格成長への影響は報告されていないものの、ガラパゴス諸島では影響が見られている。
その違いを生む原因としてはガラパゴス諸島のほうが栄養塩に富んでいる(骨格のP/Caも大きい)ことが挙げられる(のちほど再度登場)。

飼育実験において、栄養塩が高い状態では酸性化による骨格成長阻害が一部軽減されることが確認されている。
高い栄養塩状態では骨格成長量が増大することがあるが、一般的には高い栄養塩状態はサンゴ礁にとってマイナスの影響をもたらすことが多い。
それを説明する仮説としては、水中の栄養塩濃度もしくは一次生産量の増大によって、サンゴの従属栄養の度合いが増加し、骨格成長が促進されるが、それがかえって骨格密度の低下につながる可能性が挙げられる。そうした密度低下は礁の形成と維持に必要な、硬い骨格形成を妨げるものと思われる。

ウニ類は南部ほど豊富に見られ、それはウニ類の餌となる底性藻類の生産量が増大していることが原因と見られる。
高い栄養塩濃度と低いpHは、藻類やカイメン類といった生物が媒介する化学侵食を助け、より早い生物侵食に繋がっている。
こうしたすべての要因は炭酸塩の基盤の保存にとって厳しい環境を作り出している。

従って、もともと低いpHと高い栄養塩濃度をもつガラパゴス諸島においては、温暖化は骨格密度の低下および生物侵食の増大につながると結論づけられる。

パプアニューギニアとガラパゴス諸島において、低いpH状態でも礁形成が可能かどうかには違いが見られているが(例えば、それぞれpH=7.7、8.0付近でサンゴが姿を消す)、それを説明するために5つの仮説を紹介している。
(1)パプアニューギニアのサンゴはガラパゴス諸島と異なり低温ストレスを受けていない
(2)ガラパゴス諸島は栄養塩濃度が高いために、生物侵食が盛ん
(3)パプアニューギニアでは骨格密度が高い状態が維持されている
(4)パプアニューギニアは水温が高いため、炭酸系の悪影響が軽減されている(石灰化速度が大きい)
(5)ガラパゴス諸島と異なり、パプアニューギニアにおいては、サンゴ幼生の新規参入は近傍の健全なサンゴ礁からもたらされる

最近発見された、パラオの低Ωサイトでは、周囲の通常Ωよりも”健全な”サンゴ群集が確認されているものの、一方で多肉質のサンゴが多いことが特徴的である。
そのため、通常のイシサンゴ目(ミドリイシなど)よりは、こうした多肉質のサンゴのほうが骨格が組織で厚く覆われ、酸性化に対して耐性が大きい可能性がある。

さらに薩摩硫黄島のCO2湧出サイトのように、イシサンゴ群集からソフトコーラル群集へのシフトも報告されている。

しかしながら、ガラパゴス諸島においてこうした群集シフトが起きるかどうかについては不明瞭である。

二酸化炭素の排出削減が行われない限り、ガラパゴス諸島に存在するほとんどすべてのサンゴ礁は、今世紀半ば頃にはすべて消滅しているかもしれない。
もしかすると、栄養塩が過剰に存在するサンゴ礁ほど、温暖化・海洋酸性化に対して脆弱なのかもしれない。