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☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English) おまけTwilog

2014年9月16日火曜日

新着論文(G3, GRL, JGR, PO)

G3
Provenance of the late quaternary sediments in the Andaman Sea: Implications for monsoon variability and ocean circulation
Neeraj Awasthi, Jyotiranjan S. Ray, Ashutosh K. Singh, Shraddha T. Band, Vinai K. Rai
アンダマン海から得られた堆積物コア中のSr・Nd同位体記録から、過去80kaの陸上風化と(河川・海流による)砕屑物運搬プロセスを考察。

The dynamics of global change at the Paleocene-Eocene thermal maximum: A data-model comparison
Timothy J. Bralower, Katrin J. Meissner, Kaitlin Alexander, Deborah J. Thomas 
南大洋で得られた堆積物コア(ODP Site 690: Maud Rise)のPETMの開始時期のデータの再解釈。一連の出来事(表層の温暖化→熱・栄養塩分布の変化→深層水の酸性化→陸上風化の活発化)をEMICsによるモデルの再現と比較することでより確かなシナリオを提示。

GRL
About the role of Westerly Wind Events in the possible development of an El Niño in 2014
Christophe E. Menkes, Matthieu Lengaigne, Jérôme Vialard, Martin Puy, Patrick Marchesiello, Sophie Cravatte, Gildas Cambon
2014年4月までの東赤道太平洋の表層水温アノマリは1997年の強いエルニーニョのそのものに類似していたことから、多くの研究者が2014年に強いエルニーニョが来る可能性を予感していた。しかしながら、7月にはアノマリは平年的な位置へと移動した。海洋モデルから、西風ジェットの発達様式が1997年のものと異なっていることが原因であると示唆される。従って、今年強いエルニーニョが発生する見込みは低くなっている。

JGR-Oceans
Distinguishing meanders of the Kuroshio using machine learning
David A. Plotkin, Jonathan Weare, Dorian S. Abbot
黒潮大蛇行のメカニズムやその特徴付けはあまり良くなされていない。再解析データを異なる手法を用いて解析することで、(1)黒潮がバイ・モーダルであること、(2)黒潮反流との相関性が高いこと、(3)平均的な位置よりはむしろ流路の変動性によって良く特徴付けられることなどが分かった。

Paleoceanography
Simulating Pliocene warmth and a permanent El Niño-like state: the role of cloud albedo
N. J. Burls, A. V. Fedorov
鮮新世(Pliocene; 4-5Ma)には赤道太平洋東西の温度差が小さく(1-2℃)、よりエルニーニョ的であった証拠が多く見つかっている。その後の全球的な寒冷化とともに西には暖水域、東には冷水域が形成されたと考えられているものの、その理論体型はまだ作られていない。雲のアルベドを変化させる気候シミュレーションから、多くの間接指標を統合的に説明できる結果が得られた。雲のアルベドの南北方向の傾きの現象が原因?

2014年9月15日月曜日

『変化する地球環境』(木村龍治, 2014年, 放送大学叢書)

変化する地球環境〜異常気象を理解する
木村龍治
放送大学叢書、2014年(¥1,700)

僕自身、タイトルに惑わされて図書館で借りたわけであるが、本書の内容は気候変化問題とはほとんど関係なく、日々の気象現象を数式を用いずにほぼ文章のみで巧みに説明した書籍である。

サンゴに未来はあるか?2

>続編「サンゴに未来はあるか?3」(2018.4.20追記)

以前書いた記事「サンゴに未来はあるか?」は僕の書いた記事の中でも特に読まれているものです。これまでに14,000人ほどの読者に見られたようです。

前回の記事を書いたのは2013年の1月。
どちらかと言うと、前回の記事はScience・Natureなどで大きなニュースとして捉えられたものが中心でした。
それから早1年半が経過したので、最近の知見を交えつつ、重要な文献を紹介しながら僕なりの意見を再びまとめておきたいと思います。
サンゴの将来に対しては悲観的な意見が大半ですが、中には楽観的なものもあるため、それぞれ紹介してみたいと思います。

2014年9月9日火曜日

シンポジウムメモ(第四紀学会 2014.9.6-8)

2014.9.6-8と柏キャンパスAORI・新領域で開催された日本第四紀学会のメモ。

今回、自分の所属研究室が世話役の一つになったこともあり、今年から学会員になったという経緯。古気候学はわりと新参者らしい。

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◎中川毅さん@立命館大学
水月湖堆積物コアの裏話。

年縞で知られる水月湖堆積物だが、世界の年縞と比較すると、実はそれほど綺麗ではない。
偽縞や縞の数え落としが実際には存在し、XRFスキャナーや顕微鏡観察でも克服できない壁がある。最終的にはΔ14Cを用いたウイグルマッチングによってHulu洞窟のU/Th年代を利用することで得た年代モデルが今のところ一番尤もらしい。

◎佐川卓也さん@九州大学
浮遊性・底性有孔虫のMg/Ca古水温計について。
キャリブレーション式がコアトップ・セディメントトラップ間で違ったり、海盆ごとに違うことに注意が必要。どの換算式を使っているのか(Anand v.s. Gassen & Elderfield)

棲息深度が異なる浮遊性有孔虫Mg/Caから、温度躍層の深さ・混合層の厚さの議論が可能
→LGMには赤道太平洋はエルニーニョ状だった?
ただし、棲息深度の変化・石灰化時期の把握が課題(過去にも同じかどうか、など)

◎Jody Websterさん@Sydney Univ.
モントレー湾水族館にも所属していたというのが驚きだった。その後、James Cook大を経て、現在はSydney大学へ。

サンゴ礁掘削から分かるグレートバリアリーフの発達史とサンゴの環境適応性について。
目から鱗だったのは、サンゴ礁地形はパンケーキのように、不整合で隔たれた不連続記録が得られることが多いということ。海水準上昇期の間氷期のものは残りやすいが、低下期は陸上で浸食されるので残りにくい。
海底地震波探査で見られる反射面はこうした不整合面であることが多いため、いくつ前の間氷期まで遡る記録が地面に眠っているかが分かる(MIS:奇数)。

興味深いことに、各・間氷期には同じような組成で構成されるサンゴ群集が繰り返し出現する。このことは、氷期にはどこかにサンゴの避難所(refugia)があり、そこで種が保存されているということ。氷期を克服し、海水準上昇期が訪れると、再度サンゴ礁の成長が始まる。ただし、このときサンゴ礁の3次元的な成長の様式は極めて複雑である(水平・垂直方向の成長など)。
この事実から、サンゴ礁は極めてダイナミックなシステムであり、サンゴは環境変化に対して’強い(resilient)’ということが示唆される。

◎山本正伸さん@北海道大学
別府湾の堆積物コアを用いた過去2,000年間の環境変動について。特にPDOとの関連。
アルケノン水温計を用いた表層水温、イワシの鱗(カタクチイワシ/マイワシ比)を用いたPDO指標の作成。

別府湾はお椀状の形状をしていることで、底層の酸素濃度が低く、生物擾乱も小さい。堆積物の年代モデルはツキガイモドキの殻の放射性炭素年代から得られており、この貝は貧酸素でも生きることが特徴である。

アルケノンの生成時期(円石藻の増殖時期)は19世紀以前は秋であったが、19世紀以降春・秋に濃度のピークが見られ(年により異なる)、人為的な栄養塩流入などが原因の可能性がある。

大規模な火山活動ののち、PDOの正のフェーズが長引き、日本近海が数十年にわたって寒冷化する可能性が、モデルの結果とも併せて示唆。

◎池原実さん@高知大学
近年、黒潮の流量は増大傾向にあり、温暖化で流量が増大するというモデル結果とも整合的。黒潮は温度・塩分・水蒸気を日本近海にもたらすため、日本の気候に大きな影響を及ぼしている。

高知の南沖で採取されたIMAGESの堆積物コア中のアルケノン古水温計・Mg/Caの記録を紹介。アルケノン古水温計が時折かなり低い温度を示しており、測定に使用したサンプル中のアルケノン濃度が極端に低いことが原因として考えられ、注意が必要。大規模火山噴火に伴う火山灰の降下と、相対的なアルケノン濃度の希釈が原因か。

◎長島佳奈さん@JAMSTEC
日本海堆積物コア中の石英の粒度・ESRから偏西風の流路を推定(どこの砂漠からダストが飛んできているかを利用する)。

完新世の記録は必ずしも鍾乳石のd18O記録と合わない。鍾乳石d18O記録は様々な要因によって影響されるため、過去のモンスーン変動の指標として使う際には注意が必要。

◎川村賢二さん@極地研
アイスコア中の希ガスを用いた過去の海の平均的な温度復元の試みについて。希ガスは反応性が低いため、その濃度は海の溶解度によって支配されると予想される。しかしながら、実際には氷が形成される際の重力分離や熱拡散の影響が大きいため、うまくモデル化しないと使えない。

2008年のNature論文のO2/N2年代モデルは、ローカルな日射が雪の変成(metamorphism)に影響することを利用している。

MIS12→MIS11(Holstanian間氷期)への過渡期であるターミネーション5はかなり特異的な退氷期。2段階の変化が見られる。
後半は北大西洋へのIRDの供給を伴わずに海水準が上昇していることから、かなりゆっくり北半球氷床が融解したことが示唆される。
日射量による変動が極めて小さいことで特徴付けられる。CO2濃度を220ppmで一定にして行ったモデルの結果からは、CO2濃度の上昇がなければうまくターミネートしないことが示唆されている。

◎阿部彩子さん@AORI
LGMには太平洋の気圧が大きく変化し、北半球の偏西風も大きく南に位置していたことが示唆されている。その原因は氷床の形状というよりは、アルベド(白さ)が効いている。

完新世の温暖期の原因。北半球の日射量は確かに増大していたが、観測される気温を説明できるほど大きくはない。おそらく北極圏の増幅(polar amplificaiton)が重要だった。雪よりも植生は多くの日射を吸収することができることによる。

氷期におけるD/Oサイクルは相変わらずモデルで再現が難しい。特に東アジアの鍾乳石d18O記録の再現はほとんどできない。鍾乳石d18Oは単純に量的効果(amount effect)ではないという指摘も。
おそらく北極海の海氷形成・沈み込み・南北両半球の熱分配の変化が原因か。

◎菅浩伸さん@九州大学
石垣島名蔵湾における海底地形のマッピングから、海底にあるものとしては知られているなかで日本最大の、カルスト地形が見つかった。
ただし、その起源となる石灰岩がまだ判明していない。掘削も行われたが、現在分析待ち。
陸上の地質とはまた異なる地質が海底に存在することが大変興味深い。カルストの複雑な地形は現在、多様なサンゴ群集によって被覆されている。

Kan, H, Urata, K., Nagao, M., Hori, N., Fujita, K.,Yokoyama, Y., Nakashima, Y., Ohashi, T., Goto, K., Suzuki, A. (in press) Submerged karst landforms observed by multibeam bathymetric survey in Nagura Bay, Ishigaki Island, southwestern Japan. Geomorphology <Open Access>

『10万年の未来地球史』(カート・スティージャ, 2012年, 日経BP社)

邦題:10万年の未来地球史
原題:Deep Future ~ The next 100,000 Years of Life on Earth
カート・スティージャ(Curt Stager)
日経BP社(2012年)¥2,200-



僕の地球観はおおよそ一般の人とは異なっているものだと思う。

本書の著者であるカート・スティージャの視点もまた、一般の人には到底理解しにくいものであろう。

本書は、〜万年あるいはそれ以上といった、時間感覚・長期的な視野を持った地質学者(古生態学者)が綴る、近年の気候変化にまつわる物語である。

2014年9月8日月曜日

『サンゴ礁』(高橋達郎, 1988年, 古今書院)

サンゴ礁
高橋達郎
古今書院(1988年)

サンゴ礁研究者ほど熱帯の海を愛する人はいない。

逆に言えば、熱帯の海に魅せられてサンゴ礁を研究対象とする人が多い。

多くの人が知るサンゴ礁とはスノーケリング・スクーバダイビングで訪れる色とりどりの魚・サンゴ・その他生物がきらびやかに舞い踊る地であり、全体の構造を俯瞰する人はあまりいないだろう。
サンゴ礁においては、昼夜・季節の生物のサイクルをはじめとして、潮汐による海水の交換、場合によっては干上がったりと、極めてダイナミックな変動が存在する。

そこで生きるサンゴは当然多様であり、サンゴが支える生物も多様である。
またサンゴそのものが地形を形成することもあり、地形といった観点でも極めて多様である。”多様性”がサンゴ礁の主題である。