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☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English) おまけTwilog

2016年7月24日日曜日

最近の実験あれこれ

出張ラッシュも終わり、名古屋で穏やかな日々を過ごしています。

最近は柏で準備してきた二枚貝の試料を、放射性炭素年代測定用にCO2精製する実験か、西赤道太平洋の海底堆積物コア中の浮遊性有孔虫をふるう実験のいずれかをやっています。

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放射性炭素の実験は2日で5サンプルしか処理できないため、なかなか気の遠くなる作業です。というのも、私が測定しようと思っている二枚貝の試料数は約50であり、さらに他の人からも測ってほしいという試料があるため。

冷水二枚貝の一種ビノスガイ

ただ、残念なことに名古屋大学のタンデム加速器は現在お休み中で、秋以降からしか稼働しない可能性もあります。
いざ加速器が動き出したときにサンプルがないではもったいないので、週1くらいをめどにコツコツ準備しています。
といってもまだ15サンプルが終わった程度なので先は長い。。

実験内容としては、1日目に二股試験管に粉末状の炭酸塩試料とリン酸を別々に入れ、5時間ほど真空引き。その後、試験管をひっくり返して反応させて一晩放置。
二股試験管に試料とリン酸を入れたところ

暑い時期ということもあり、ガラスラインの真空ポンプの直前にある水トラップ用の液体窒素がどんどん蒸発してしまうので、1時間〜1時間半ごとに継ぎ足す必要があります。
市販のリン酸には大量の水が含まれているので、この工程は重要であり、作業が終わるときには水トラップに大量の水が捕獲されていることが分かります。

2日目はCO2の精製。炭酸塩とリン酸を反応させるとCO2と水が生じますが、CO2だけを抽出し、ガラス管に封じ込めます。
最終的にはCO2を水素還元でグラファイト(C)に変換し、試料中の放射性炭素を分析します。
ガラス管の中に精製したCO2が(無色なので見えない)


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堆積物の実験はまず堆積物を63μmの目のふるいで水道水をかけながらふるい、不要な泥を除去します(この泥の中には円石藻や珪藻や粘土鉱物が含まれ、研究者によっては宝の山なのですが…)。

JOIDESでブラジル人の友人が処理しているやり方を参考に、見よう見まねでやってみました。


水洗いをしたのち、保管のためオーブンで乾燥させます。このとき、ラベルを中に入れ忘れると大変なことに…

普通の流水よりシャワーの水のほうが圧倒的に早い。あまり強くこすったりすると有孔虫の殻が壊れてしまうので、常に優しく。根気が必要です。



仮保管します。だいたい1サンプル処理するのに30分くらい。
私が測定するのは有孔虫のホウ素同位体。ガラス(ホウ珪酸ガラス)にはホウ素が大量に含まれており汚染の原因になり兼ねないので、プラスチック製の容器を使用しています。


今度はさらに荒い目のふるいでふるい分け、目的とする殻サイズを抽出します。丸っこい有孔虫が多いので、結構転がってどこかに行ってしまいます…

これから実体顕微鏡下で2種類の浮遊性有孔虫を拾い出します。こちらも先は長い…
G. ruber

G. sacculifer


10月にはIODPのサンプリング・パーティーがテキサス大学で行われ、サンプルがようやく手元に届きます。
それらを今回と同じ方法でどんどん捌く必要があります。

ああ、アルバイトスタッフが欲しい。来年度あたり真剣に考えてみよう。

2016年6月17日金曜日

西赤道太平洋の海底堆積物のサンプリング

JAMSTEC高知コアセンターに貯蔵されている堆積物をサンプリングさせていただきました。

今回サンプリングしたのは2005年に研究船「かいれい」によって西赤道太平洋で採取されたコアの上位2セクション(約1.5メートル)。時代は約3万年前から現在。

堆積物中の浮遊性有孔虫を使った研究をするため、深度方向にサンプリングをしました。


へらで2cmごとに印をつけ、堆積物を採取してはユニパックに詰めていきます。



時間が多少余ったので、一部のサンプルについては細かい目のふるいでふるってみました。


白いツブツブしたものが有孔虫などの生物の殻の化石です。

今後、顕微鏡の下で狙いの種の浮遊性有孔虫を拾い出す予定です。とても時間のかかる作業なので、秋くらいまでを目処にコツコツ拾い出したいと思っています。

殻を分析するのは来年度以降かな。

IODPのサンプルが10月に入手できますが、IODPのサンプルに着手する前の測定法立ち上げみたいな位置づけで分析します。

2016年6月14日火曜日

船越湾定期調査(2016年6月)

先週、岩手県船越湾で定期的に行っている調査(大気海洋研究所・清家助教)に参加してきました。

スミス・マッキンタイアー採泥器を用いた表層堆積物の採泥と、潜水による堆積物コア採取を行いました。
最深で20 mの地点でコアを採取しています。

二人一組でコアを打ち込みます(左が私)

選手交代

コアを打ち込んだ後、先端にキャップをし、引き抜きます(人力)


私がこの調査に参加している理由は、清家助教のお手伝いがメインですが、研究対象にしているビノスガイを採取したいためでもあります。
この湾では水深20m地点からしか見つかっていないので、なかなかめぐり合うことがありませんが(潜水時間も短い)、今回の調査では念願の生貝を採取することができました!

私が見つけた1個体は堆積物中に潜っていましたが、2本鈎の熊手でたまたまヒットしました。

沈められたコンクリートの周りには死殻が多数

今回採れたものの中には50歳くらいの私が望んでいた年齢のものも入っていると見込んでいます。
今後、殻の断面の成長線を解析して年齢を明らかにするとともに、放射性炭素を測定し、1955年以降の放射性炭素濃度の急増(Bomb-peak)を捉える予定です。

次回は9月に大槌湾の調査に参加する予定です。

2016年5月18日水曜日

名古屋に移って

研究者のブログを読んでいると,折に触れて文章を書くことの重要性が説かれている.
文章作成の能力は日々文章を書くことによってのみ磨かれる.意識をして書く訓練を積み重ねなければならない.

最近は日本語・英語で公募書類や論文の直しなどを書くことが多く,あまり日常を綴る文章がかけていなかった.たまには普通のことばで文章を書く必要もあると感じ,筆をとる(キーボードを叩く)次第.

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4月18日付けで名古屋大学宇宙地球環境学研究所・年代測定研究部に赴任した.
これまで年代測定総合研究センターとしてあったものが,太陽地球環境研究所・地球水循環研究センターと統合され,今の形になった.
名古屋大学東山キャンパスの北東部の小高い丘の上に新棟が建てられ,年代測定研究部は2号館(正式名称:研究所共同館Ⅱ)の2階にある.
実験環境は1階部分に整えられているが,まだ引っ越して間もないため,実験ができる状態にはほとんどない.

今日初めて2研(1研は総合博物館,2研は野依記念ホールの隣にある古い建物,新棟が今の建物)を見学させていただいた.
私が生まれる前からある建物で,私が大学院にいた時の指導教官の横山先生もかつてこの施設を訪れ放射性炭素年代測定を行っていたという.
私も6月に放射性炭素年代測定に関する実験を一通り教わる予定であり,2世代(?)にわたって同じ実験室で実験を行うとはなんとも不思議な縁である.実験を教えてくれる方もかつての様子を覚えていた.

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IODPの航海中に本公募が出て,しかも採用の通知が来たのも航海中だったため,乗船中に引っ越しの手続きを行うことができなかった(船のインターネット環境では制限が多かったため).
そのためまず赴任日に合わせて名古屋に赴き,しばらくは名古屋大学キャンパス内の宿泊施設(シンポジオン)に滞在した(1泊約4,000円).ただし,この施設は日本人の利用をそれほど想定していないようで,連続して1週間滞在することは叶わなかった.そのため,1泊だけは市内のホテルを利用した.
名古屋滞在中に不動産屋をめぐってアパートを決め,ゴールデンウィークを利用して千葉のアパートから名古屋市内のアパートに引っ越した.
これまで2人暮らしをしていたため,家具の移動は半分で済んだ(家具の半分は新たに購入する必要があった).
ここ数日で注文していた家具類がほぼすべて届けられ,ようやく暮らせる環境が整ってきた.

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名古屋のゴミ回収システムに関して,不満に思うことがある.
燃えるゴミの回収は週に2回しかない.
またダンボールは毎週回収してくれず,集団回収のシステムを利用することになる.車がある人や回収施設の近くに住んでいる人はともかく,それ以外の人には大変不便なシステムだ.しかも集団回収は月に数回のチャンスしかなく,出張の多い私が利用できる日は思いの外少ない.自宅アパートにダンボールを溜めるためのスペースを設けなければならない.

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暮らすための雑貨を購入するため,自転車で市内のいろんなところに足を運んでいる.
ただし,名古屋市内は意外なところに坂道がある.登りきったと思ったらすぐに下る道があり,道の選択を間違うと余分な体力を使うはめになる.
最近ようやく坂道の取捨選択ができるようになってきた.不動産めぐりをしてきたときに担当の方が坂道について熱弁していたが,実際に苦労を経験してようやく坂道の重要性を理解できた.
私が住むアパートは川名駅の近くだが,このあたりは非常にスーパーが多い.西友にマックスバリュにその他の中型スーパーにより取り見取りである.どのスーパーで最安の品が買えるのかを把握したいが,これだけ選択肢があると見て回るのも大変である.
カーマという大型ホームセンターがあり,ここに行けば引っ越し後必要なものがほとんど揃う.
また,少し距離はあるが,自転車で行ける距離にイオンモール・ドンキホーテ・ケーズデンキ・ダイソーもある.荷物の量にさえ注意すれば,ほとんどのものが自転車で買い揃えられ,この辺りを選択したことに大変満足している(名古屋大学出身の友人に紹介してもらった).

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大気海洋研究所には,旧海洋研究所時代からサッカー部が存在し,私も修士1年の時から日々の練習に加わっていた.これまでは毎日のようにサッカーができたが,名古屋大学には残念ながら職員のためのサッカー環境が整っていなかった.学生のチームは非常に多くあるが,社会人らしきメンバーの姿はない.
このキャンパスには非常に良い人工芝のグラウンド(フットサル・サッカーともに)はあるものの,肝心の社会人チームがほとんどないようだ.しかも昼は職員が優先的に利用できるコアタイムに指定されているらしいが,なんとももったいない.
週に1回だけ活動するチームをなんとか見つけることができたので,来週以降参加したいと思っている.

2016年4月20日水曜日

気になった一文集(English ver. No. 27)

We know that any deal emerging from the Paris conference will not solve the problem. Even if nations follow through on the climate pledges that have been made so far, global emissions are projected to rise until at least 2030, and temperatures could reach 2 °C above pre-industrial levels as early as 2032. The UN has set the goal of limiting any rise to 2 °C, but even this increase would not protect the world’s most vulnerable citizens from rising tides, extreme weather and shifting precipitation patterns.

If humans want to keep living on a planet that looks, feels and functions like the one we live on now, it is time to sign an agreement and get to work.

The way forward is through ParisNature 527, 409 (26 November 2015)

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A reasonable chance of attaining 2 °C translates to a finite global carbon budget of about 900 gigatonnes of carbon dioxide from 2015 onward that must be shared in a fair way between all nations.

Renewable energy systems compete even at low oil prices, which in turn closes the door on unconventional, expensive oil, such as offshore oil and exploitation in difficult environments such as the Arctic.

We need an agreement that is good enough to tip the world decisively towards rapid decarbonization. A new treaty does not need to force nations into compliance, but rather should create confidence and send the right signal — to investors, businesses and societies at large — that the global political leadership is turning irrevocably towards a new sustainable era.

To meet the 2 °C limit, the world must cut carbon emissions at about 6% per year.

A ‘perfect’ agreement in Paris is not essentialNature 527, 411 (26 November 2015)

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The analysis also showed that with warmer waters or increased acidification or both, there would be deleterious impacts on habitat-forming species for example coral, oysters and mussels. Any slight change in the health of habitats would have a broad impact on a wide range of species these reefs harbour.

Global marine analysis suggests food chain collapse」The University of Adelaide NEWS & EVENTS (13 Oct 2015)

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The close correspondence between CO2 concentrations and major events in human history points to the fact that the world’s socioeconomic system left its mark on atmospheric CO2 concentrations centuries before the industrial revolution.

To what extent the fluctuations were caused by climatic variations or human activities continues to elude us.


Holocene carbon cycle: Climate or humans?Nature Geoscience 8, 335–336 (2015)

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The ocean acidification community has done this well in a remarkably short time; the oxygen community has yet to step forward as a unified voice across all ocean realms.


Linking coasts and seas toaddress ocean deoxygenationNature Climate Change 5, 401–403 (2015)

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Although most of the past emissions have come from wealthy nations, the bulk of those in the future will come from developing countries. Scientists have made it abundantly clear that every country must do everything that it can, and as fast as it can, if the world is to prevent the worst consequences of global warming.
過去の(二酸化炭素)排出のほとんどが豊かな国々からもたらされた一方で、将来の排出の大半は現在発展しつつある国々からもたらされる。もし世界が地球温暖化の最悪の結末を回避するつもりがあるのならば、全国家ができるすべてのことを、可能な限り早く、行動に移さなければならないことを科学者たちは再三明らかにしてきた。

Although countries agreed to engage in this new process, any action that they take to reduce emissions is on a purely voluntary basis. 
すべての国がこの新たなプロセスに協力することに同意したが、排出量を減らすためのいかなる行動も完全にボランティアの精神に依存している。

A seismic shiftNature 528, 307 (17 December 2015) ”EDITORIAL”

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Climate change is a serious challenge because the atmosphere gives a free ride to countries that emit. If some nations sit back and rely on others’ efforts, the incentives for anyone to act are weakened.
大気は(二酸化炭素を)排出する国に対してタダ乗りの機会を与えるため、気候変化は解決しがたい課題である。もしある国が他の国の努力を傍観し、それ頼みにしたならば、誰もが行動を起こすというインセンティブは減じることになる。

Price carbon — I will if you willNature 526, 315–316 (15 October 2015) “COMMENT”

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Any realistic pathway to a 1.5 °C world will probably require an initial overshoot beyond the temperature target and the subsequent removal of significant amounts of carbon dioxide from the atmosphere, which may turn out to be unfeasible.
1.5 °C温暖化した世界へのいかなる現実な道筋も、はじめは地表気温が1.5 °Cを上回り、その後かなりの量の二酸化炭素を大気から除去すること(を通じて気温を下げること)を必要とするであろうが、それは実現可能性がかなり低いことがのちのち分かるだろう。

The risks for most impacts will be discernibly higher in a 2 °C world than at half a degree less.
2 °C温暖化が招く影響のリスクは1.5 °C温暖化によるものに比べ、目に見えて高いだろう。

An impossible task?Nature Geoscience 9, 181 (2016) “Editorial”

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The climatic changes during the PETM occurred over longer time scales than those of anthropogenic climate change. The impacts of the latter may thus be even more severe.

However, the initial CO2 rise during the PETM took place over the course of a few millennia, about a factor of 10 slower than if humans burned the remaining fossil-fuel resources under a business-as-usual scenario.

What is clear, however, is that the large release of CO2 during the PETM transformed conditions on land and in the ocean in ways that affected the Earth system for more than 100,000 years and that might be considered catastrophic by many people today.

A heated mirror for future climateScience 352, 151–152 (08 Apr 2016)

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Peer review is the backbone of modern science, and academic researchers are expected to participate in the endeavour. Although time consuming, delving deeply into someone else's paper can benefit a scientist's own work. The process allows peer reviewers to read about research before it is generally known and to gain insight into how other scientists write manuscripts and present data.

“Not only will it help you to hone your power of judgement,” she says, “but it is also a great way to broaden your knowledge and demonstrate transferable skills for offering an authoritative view to your peers”.

Peer review: Close inspectionNature 533, 279–281 (12 May 2016)