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2016年10月4日火曜日

二枚貝の軟体部・殻への重金属の蓄積(Schöne & Krause Jr., 2016, GPC)

Retrospective environmental biomonitoring – Mussel Watch expanded
Bernd R. Schöne, Richard A. Krause Jr.
Global and Planetary Change 144, 228–251 (2016)
より。

二枚貝の軟体部・殻の微量元素・有機物分析を利用した環境汚染研究のレビュー。
これまで軟体部や殻の全岩分析が利用されてきたが、殻断面の成長方向に沿った分析が重要であることを強調。また、動物としての生理をよりよく理解することが殻の化学組成の理解に必須であることを指摘。

以下は個人的に重要だと思った項目についての各章ごとのメモ(手抜きした論文概説)。

〜〜〜

2. 成長線

・蝶番部に見られる凹凸構造は、貝殻の開閉の際に捻れることを防いでいる。

・殻は外層と内層に分かれる。外層と内層は見た目で判断できるが、結晶構造・有機物量・化学的にも異なっている。
殻が閉じると嫌気呼吸となり、酸性の代謝物が内層を溶かしている

・殻皮は貝をウイルス感染や溶解から守っている。さらに外敵へのカムフラージュの役割もある。

・殻の石灰化が起きる部位は海水からは隔離されている。石灰化の際、
Ca2+ + HCO3- = CaCO3 + H+
の反応によって石灰化部位が酸性的になるが、脱炭酸酵素(Carbonic unhydrase; CA)の働きで代謝産物のCO2がHCO3-に変換されるなどして過剰に酸性にならないように抑えられている
受動的なイオンチャネルによるイオン輸送だけでは石灰化に必要なイオンを補えないため、Ca2+ATPaseに代表される酵素が働いていると考えられる。
また様々な有機物(キチン・たんぱく質・脂質・ムコ多糖・グルコサミン)が石灰化に関与している
自然界では不安定な、アラゴナイトやバテライトといった結晶系の炭酸塩を貝は分泌している。
有機物以外にも各種微量元素が輸送され、殻に取り込まれている。以下の取り込みが考えられる。
(1)結晶表面への吸着(2)有機物に取り込まれている(3)結晶内でCa2+を置換(4)炭酸塩以外の結晶に取り込まれている

エキソサイトーシス(exocytosis)によって、小胞を通じて体内の異物を体外に除去する機能がある。毒物の蓄積・除去に重要な役割を負っていると考えられる。

・殻の形成周期は種ごとに様々ある。潮間帯の種は生息環境が浸水してる間により成長するため、小潮の潮位差が小さい時によく伸びる。逆に大潮では干出の時間が長くなり成長しにくくなる。

・年成長線にはS・Sr・Mg、有機物の濃集・欠乏が見られることがある。さらに微細結晶構造もより原始的になる。


3. 二枚貝の生理と生態

・ムール貝に比べ、カキは重金属を蓄積しやすい

・イシガイ科を例に挙げると、亜鉛はどの個体も同程度の濃度に保たれている一方で、カドミウムはサイトごとに異なる(水塊を反映する)。元素ごとに生物にとって必須/不要かがあるので、恒常性(ホメオスタシス)が強く表れる場合とそうでない場合がある。

金属またはその他汚染物質が組織から除去される速度(生物学的半減期)は種ごとに異なる。そういった特性を把握することが、殻の地球科学分析の結果の解釈にも重要(時間解像度の平均化の問題など)。

・外的要因(塩分・酸素濃度・水温)によっても元素の取り込みが変わることがある。
例えば低塩分ほどカドミウムやクロムの取り込みが多くなる一方、亜鉛にはそうした傾向が見られていない。その理由は貝の生理に関係したものや堆積物中の無機化学プロセス(元素の動態・反応性が変化する)に関係したものまで、様々ある。

・同じ二枚貝でも種によって微量金属元素の取り込み方は異なる。例えば、取り込んだ水銀の排出速度も種ごとに異なる。おそらく金属の取り込みのメカニズムに多様性があることが原因。貝殻へと除去する過程もあるかもしれない。


4. 重金属汚染

・軟体部に比べ、殻は保存が容易で環境中の微量元素を反映しやすいという利点がある一方、必ずしもすべての種の殻に環境の微量元素濃度が反映されるわけではない

・微量元素の濃度は年齢、微細構造でも異なる可能性があり、全岩分析(whole shell, bulk)によって標本間の比較を行う際などには解釈に注意が必要である。殻は常に同じ速度で形成されるわけではなく、ある時期のある時間に形成されるため、バイアスがかかっていることに注意が必要。

・遺跡から発掘された貝を利用して現在と過去の金属汚染を議論したい場合、埋没後の続生作用も考慮すべきである。

貝殻への微量元素の取り込みは殻の部位ごとに異なる。すなわち、成長速度が大きく影響していると思われる。生息密度は殻の形状に影響するので、重要な因子であると思われる。

・殻の鉛の経年変動を使った研究は、ガソリン利用の開始など人為起源の鉛汚染をうまく捉えている。コントロールサイトの設定、複数個体の分析などが必要。


5. 続生作用

・生物の死後あるいは存命中に殻の微量元素濃度が続生作用を被ることがある(ある元素の濃度が増加/減少する)。アラゴナイトのカルサイト化や間隙水からの二次カルサイトの沈殿などがある。
ラマン分光やSEM、XRDを使ってもともとの構造が保存されていることを確かめることが重要。