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2015年7月10日金曜日

過去の温暖期の海水準(Dutton et al., 2015, Science)

Sea-level rise due to polar ice-sheet mass loss during past warm periods
A. Dutton, A. E. Carlson, A. J. Long, G. A. Milne, P. U. Clark, R. DeConto, B. P. Horton, S. Rahmstorf, M. E. Raymo
Science 349, DOI: 10.1126/science.aaa4019 (10 July 2015)

Scienceに掲載された過去の温暖期の海水準と氷床量に関するレビュー。特にPliocene・MIS11・MIS5e・Holocene thermal optimumに着目。


過去の温暖期にはわずか数度という温暖化でもグリーンランド・南極氷床の融解が原因で数mにおよぶ全球的海水準上昇が起きていたことが知られている。

現在の地球温暖化に伴う海水準上昇の大部分は、熱膨張によって引き起こされており、氷床融解による影響は一部に過ぎない。しかし、より数100〜1,000年という長い時間スケールでは、氷床融解による寄与を考慮する必要がある。

MIS5eやMIS11の温暖な気候は、地球の公転軌道要素の変化に伴う高緯度地域への日射量の増加が主要因であり、(現在の地球温暖化と海水準上昇の主要因である)二酸化炭素による温室効果の寄与はそれに比べると小さかったということも留意しなければならない。

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Pliocene(鮮新世;~3Ma)
全球的海水準の指標として底性有孔虫殻のδ18Oが使われている。δ18Oには温度の効果が含まれており、Mg/Caなどの古水温指標を用いて補正されている。しかしながら、
・キャリブレーション
・海水炭酸系の変化
・続成
・海水のMg/Ca比の変動
・δ18O測定そのものの誤差(±10m海水準に相当)
などの影響が大きく、推定値の誤差は非常に大きい。

またダイナミックに変化する地形も過去の海水準の復元の妨げとなっている。

氷床モデルはグリーンランドが「7 m」、南極氷床が「6 m」海水準を上昇させる質量を放出していたと推定しているが(合計「13 m」)、最大で合計「45 m」上昇していたという見積りも。
(※ちなみにIPCC AR5では~20 m)

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MIS11 (424-395 ka)
現在の間氷期である完新世と地球軌道要素が似たMIS11の気候は、温室効果ガスが完新世と同程度であったにもかかわらずかなり温暖であったことが分かっている。
例えば北極圏の夏の気温、南極の気温はそれぞれ4〜9度、2.6度ほど温暖だったと推定されている。
一方で気候モデルはこうした温暖な気候をうまく再現できていない。

グリーンランド氷床の沿岸部が融け、トウヒなどの森林が広がっていたことが氷床掘削や海底堆積物の分析から分かっており、現在よりも「4.5〜6.0 m」海水準を上昇させる質量を放出していたと推定されている。
南極氷床の寄与はあまりうまく制約できていないが、合計で「6〜13 m」上昇していたというのが最善の推定に思われる(南アフリカ)。

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MIS5e (129-116 ka)
グリーンランド、南極の気温はそれぞれ5〜8度、3〜5度ほど温暖だったと推定されている。
海水準の復元結果は「6 〜9 m」の間でおおむね一致している(セーシェル、西オーストラリア、紅海)。
ただし、グリーンランド氷床・南極氷床がどれほどずつ海水準上昇に寄与していたかどうかについてはよく制約できていない。
またMIS5eの中で、短期的な、数mに及ぶ海水準の上下動が複数回あったことも指摘されているものの、地域ごとに異なり、コンセンサスは得られていない。

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Holocene (MIS1, 11.7 kaから現在)
完新世においては氷床がまだ融け残っており、~7 ka頃まで海水準の上昇が続いた。
氷床の荷重解放の影響で場所によっては海水準が見かけ上低下(土地の隆起)している地域が特に北欧周辺に見られる。
アメリカ東岸の湿地の記録からは、数十年〜数百年スケールの海水準の~10cmの上下動も復元されている。
19世紀後半〜20世紀初頭に海水準がそれまでのゆるやかな低下から急激な上昇へと変化したことが検潮記録などからも明確に捕らえられている

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その他
グリーンランド氷床や南極氷床の融解はローカルな気候に左右されているため、ローカルな気候復元が重要である。そのため、全球平均気温は必ずしも良い全球平均海水準指標にはならない。

社会にとって重要なのは、最終的な海水準上昇の規模よりも、速度であることの方が多い(100年あるいは1年に何cm上昇するか)。
MIS5eに見られる急激な海水準の上下動などの速度の制約が切に望まれるが、年代決定と手法の問題から未だ困難である。

最終退氷期のMWP-1Aがしばしば海水準上昇の上限と見なされる(100年間で >4 m)が、温暖期の氷床融解とは背景の気候場や氷床量(※それに加えて温室効果ガス濃度上昇の速度も)が根本的に異なることに気をつけなければならない。
また最終氷期(LGM)の海水準と氷床量の復元にも不確実性は残されており、特に低緯度域(far field)からのさらなる復元が望まれる。

特に温暖化に対して感度が高いのは西南極氷床とグリーンランド氷床の南部だが、東南極氷床の基盤が海水準よりも低い地域もまた重要である可能性がある。またどの温度に閾値があるのかについての理解が不足しており、さらなる復元およびモデル研究が望まれる。