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2015年3月1日日曜日

東赤道太平洋域のサンゴ礁・生物侵食・セメント(Manzello et al., 2008, PNAS)

Poorly cemented coral reefs of the eastern tropical Pacific: Possible insights into reef development in a high-CO2 world
Derek P. Manzello, Joan A. Kleypas, David A. Budd, C. Mark Eakin, Peter W. Glynn, and Chris Langdon
PNAS 105, 10450–10455 (2008).

前回の記事(以下のリンク)に引き続き、東赤道太平洋のサンゴ礁と海洋酸性化に関するもの。
ガラパゴス諸島のサンゴ礁・生物侵食・海洋酸性化(Manzello et al., in press, GRL)

前回のものと同じく、フロリダ大学のManzello氏が主著者。
この論文の中では、東赤道太平洋の海水炭酸系の気候値と、サンゴの生物侵食の度合いサンゴ礁基盤のセメントの程度との関係が議論されている。

研究対象地は3つ。パナマ湾・Chiriqui(チリキ)湾・ガラパゴス諸島
炭酸系の気候値がそれぞれ異なること、湧昇の強弱が季節により変化し、それに伴い炭酸系の値が変化するという違いがあることから着目している。

例えば、ガラパゴスでは年を通じて湧昇が起きるために酸性的な海水(低pH・高pCO2・低Ω)が広がっているが、一方のCiriqui湾は急峻な山脈に囲まれているために湧昇が弱く、比較的大気とCO2平衡に近い海水が広がっている(ただし、最近の観測からこの地域でも湧昇の影響があることが分かってきたらしい)。
パナマ湾はその中間であり、乾季には貿易風がパナマ海峡を吹き抜けるために湧昇が強化される。

サンゴの生物侵食は様々な要因によって変化するが、ガラパゴスでは世界のサンゴ礁でもっとも盛んな生物侵食が起きている。
その原因の一部は、湧昇に伴う「冷たい水の混合(浅い温度躍層)」と「高い濁度」が担っている。
サンゴは高い水温ほど、まだ濁度の小さい(光の減衰が小さい)ほど光合成が盛んになるために骨格成長速度(石灰化量)が大きくなる。すなわち、サンゴがさかんに基盤岩となる炭酸塩を形成すればするほどサンゴ礁は成長するし、逆に生物侵食が打ち勝てばサンゴ礁は成長しない。
ガラパゴスでは例外的に普通のサンゴ礁と遜色ない礁成長をする場はあるものの、ほとんどの地域でサンゴ礁の成長は見られていない。
Chiriqui湾と比較してパナマ湾・ガラパゴスの生物侵食は盛んになっている。

サンゴ礁の成長を考える上で、興味深い指標の一つが「セメント」である。
これはサンゴ礁基盤の間隙に発達する炭酸塩の二次生成物であり、一般に礁原などの低いエネルギー場よりは、礁斜面や礁嶺などの高いエネルギー場で発達すると考えられている。
また、海水のΩが高いほど発達しやすいため、過飽和であるほど成長が盛んになる。
セメントの発達度は、間隙に対するセメントの被度で表現される。
Chiriqui湾(16%)と比較してパナマ湾・ガラパゴス(数%)のセメントはあまり発達しておらず、その原因は周囲の海水のΩが低いことにあると考えられる。これは上述の生物侵食の程度とも整合的な結果である。

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彼らがこうした湧昇域に着目する理由は、海洋酸性化のアナログとして考えることで、将来サンゴ礁の成長がどうなるかの予測に役立てるためである。

ただし、実際にはほとんどのサンゴ礁では湧昇域のように栄養塩は多くない。
栄養塩については世界のサンゴ礁が抱える問題は実に様々で地域性が大きい。
排水起源の富栄養化に悩まされる地域もあれば、逆に温暖化による海の成層化によって栄養塩がさらに制限される地域もあると思われる。
サンゴはもとより貧栄養状態を好むと考えられている。それは彼らが共生藻類による光合成(独立栄養)にかなりのエネルギーを依存している結果とも言える。しかし彼らは同時に従属栄養でもあり、夜間などは水中に浮遊するプランクトン類を捕食して、呼吸している。サンゴはシンプルに見えて植物的でありかつ動物的であり、なんとも複雑な生態を持っているのである。

温暖化についてはどうだろう。現在サンゴ礁を悩ます問題は海洋酸性化よりもむしろ温暖化と言われている。
サンゴは熱ストレスを受けると共生している褐虫藻を放出し、白化してしまう。その原因はより熱ストレスに強いクレードの褐虫藻を獲得するためだとも言われるが、はっきりとしたことはまだ分かっていない。
ちなみに暖水ストレスだけでなく、冷水ストレスもまた白化に繋がることがある。
白化現象はサンゴが使えるエネルギーを著しく低下させるので、骨格成長は大きく妨げられる(または完全に停止する)。
ここ15年程度、赤道太平洋域はラニーニャ状の気候状態にあるが(地球温暖化のハイエタスとも関連)、今後数年のうちに通常状態またはエルニーニョ状態に移行すると思われる。
その際、これまで低く抑えられていた表層水温は上昇することになる(一方で湧昇が弱まるので酸性化は抑えられる)。
継続して東赤道太平洋でサンゴの成長をモニタリングすることで、温暖化・酸性化・栄養塩がサンゴ・礁成長に与える影響がよりはっきりとするかもしれない。

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個人的な所見としては、やはり湧昇域のサンゴは海洋酸性化の(地球温暖化の)良いアナログにはならないのではないかと思う。
それよりはやはり自然のCO2湧出サイト(イタリアやパプアニューギニアなど)のほうが現実の海洋酸性化に近い。