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2014年8月10日日曜日

サンゴ礁における海洋酸性化を考える上で重要な概念・知見(Kleypas & Langdon, 2006)

Coral reefs and changing seawater chemistry
Kleypas, J. A., and Langdon, C. (2006) 
In Coral Reefs and Climate Change: Science and Management, pp. 73–110.
Ed. by J. T. Phinney, O. Hoegh-Guldberg, J. Kleypas, W. Skirving, and A. Strong, AGU Monograph Series Coastal Estuarine Studies 61
のレビューより。

特にサンゴ礁における海洋酸性化を考える上で重要な概念のまとめ(メモ)。

少し古いのでアップデートが必要な事項もあるのは確かだが、基本概念はそれほど変わっていないと思う。
この論文がレビューをしたきっかけになったのは、「飼育実験などから酸性化が石灰化に影響することが示されているが、それを支持するような産業革命以降の石灰化速度低下が野外観測から確認されていない」という事実。
ただし、このレビューが引用する「グレートバリアリーフのハマサンゴの骨格成長速度は温度に対する依存性が大きく、温暖化に伴いわずかに上昇しているか、ほぼ一定に保たれている」と報告する研究(Lough & Barnes, 1997; Lough & Barnes, 2000など)は、同じ研究グループによってのちに「骨格成長速度は急速に低下している」と修正されていることに注意(Cooper et al., 2007; De'ath et al., 2009など)。

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海水への二酸化炭素の溶解過程
▶︎大気から海水に二酸化炭素が溶解してもイオンの電荷バランスは維持されるため、アルカリ度は変化しない。

▶︎アルカリ度は緩衝作用があるため、アルカリ度が高い海水ほど二酸化炭素が溶けた際のpHの変化が小さい。その逆も成り立つため、アルカリ度の小さい淡水はpHがダイナミックに変化する。

▶︎表層海水は大気とほとんど平衡状態を保っている(二酸化炭素に関する平衡時間は約1年)。そのため、深層水形成域・高い一次生産の海域など、より深層に溶存炭素・有機物が輸送されるところで効率良く二酸化炭素が海へと取り込まれる
そうした炭素はやがて海洋底の堆積物中の炭酸塩を溶かし、大気中の二酸化炭素濃度を産業革命以前の値に安定化させる(下げる)働きがあるが、その時間スケールは1,000年スケールであり、これまでに放出された二酸化炭素が自然の作用のみで元の状態に戻るのには数千年〜数万年の時間を要する。

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生物源炭酸塩の生成・溶解過程

▶︎石灰化を行う生物の骨格は様々な結晶系の炭酸塩骨格からなる
・高Mg方解石(high-Mg calcite)
・アラレ石(aragonite)
・方解石(calcite)
の順に、溶解しやすい

▶︎石灰藻はサンゴ礁のかなりの部分を被覆しており、沈積する炭酸塩骨格も莫大である。低緯度に関わらず、高緯度にも棲息するため、サンゴ礁以外の炭酸塩の沈殿にも大きな役割を負っていると考えられている。
緑藻類はアラレ石、紅藻類は高Mg方解石の骨格を作る。
熱帯域に見られる大型底性有孔虫の殻(星砂のもと)は主に高Mg方解石でできている。

▶︎生物の石灰化は二酸化炭素を放出すると考えられている。

▶︎石灰化が起きると考えられている場所は、細胞内(intersellular)・間(intracellular)・外(extracellular)であり、石灰化生物ごとに異なる。
石灰藻は細胞内(細胞壁の内か外)、サンゴは細胞外だと考えられている。

▶︎生理過程の結果として炭酸塩が沈殿するのか(biologically-induced)、能動的に骨格を形成するのか(biologically-regulated)も石灰化生物ごとに異なる。
一般に前者ほど海洋酸性化には脆弱だと思われるが、確証は得られていない。

▶︎一般に各炭酸塩結晶の飽和度(Ω)が1を下回ると溶解が始まると熱力学的には考えられるが、実際にはもっと複雑な過程であり、以下の要因が影響すると考えられている。
骨格の厚さ・構造(texture)・形態(morphology);有機物によって保護されているかどうか;結晶構造;微量元素の含有量;表面に付着した粒子の有無

▶︎海洋酸性化の進行とともに、浅海の堆積物中の炭酸塩(サンゴ礁では高Mg方解石が支配的)が溶解し、アルカリ度が増加することで酸性化を遅らせることが期待されるが、それが海洋酸性化を遅らせることはあっても打ち消すことはない。現実にはサンゴ礁で活発な石灰化が行われた結果としての低いアルカリ度、外洋との活発な海水混合とが観測されている。従って、陸棚の堆積物による緩衝能力はそれほど大きくない

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サンゴ石灰化への影響

▶︎大気中・海水中二酸化炭素濃度の増加が褐虫藻の光合成を促進するかどうかはまだ決着がついていない。さらにそれが骨格成長速度を促進するのかどうかについてもまだよく分かっていない。
また海洋酸性化は炭酸イオン(CO32-)濃度減少をもたらすが、一方で重炭酸イオン(HCO3-)濃度を増加させる。石灰化への「プラス効果(施肥)」 v.s. 「マイナス効果(溶解)」のバランスについてもよく分かっていない。

▶︎海水炭酸系以外にも温度と日射量がサンゴの石灰化に大きな影響を与えている。世界各地の野外で得られたハマサンゴの骨格成長速度は”増加”の傾向を示しており、酸性化による成長阻害というよりは、近年の温度上昇が原因と考えられている。
※ただし、冒頭で補足しているように、最新の研究結果によるとグレートバリアリーフのハマサンゴは成長速度の”低下”を示している。

▶︎今後、石灰化は増加?減少?
「温度上昇による正の効果が酸性化による負の効果を上回る」と予測する研究者もいる。だが、温度上昇もまた最適温度(optimum temperature)を超えるとサンゴのストレス要因になるため(高温ストレスによる白化現象など)、石灰化は負に転じると予想される。

▶︎生物の石灰化の起源は遥か昔、カンブリア紀まで遡る。海水のCaイオン濃度の急上昇と一致していることから、当初はCaの毒性を和らげるための解毒機構だったのではないかと推測されている。

▶︎石灰化に伴う骨格成長のメリット
・より水流が複雑な状態に自らを置くことで、栄養塩・酸素へのアクセスが良くなる
・より水面へ近づくことで、より強い光を獲得する
・他の成長速度の遅い生物を覆うことで、光を獲得するとともに占有面積を拡大する

▶︎サンゴ礁において石灰化が行われることのメリット
・海水準の上昇についていく
・3次元的に(深度方向も含む)複雑な構造によって生物多様性が維持される
・複雑な構造が複雑な水力学を生み出す

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今後の研究に必要なこと
▶︎現場におけるより多くの観測(海水炭酸系・骨格成長量・石灰化速度・温度・塩分・光量・風速・流速など)
とくに、骨格成長量(extention rate)石灰化速度(calcification rate)とは必ずしも一致しないことに注意する必要がある。なぜならば、前者は長さであり、後者は質量だからである。

▶︎石灰化をうまくコントロールできず、高Mg方解石でできた殻を持つような生物(石灰藻・底性有孔虫・棘皮動物など)に対する海洋酸性化の影響評価が不足している。

▶︎研究間でより統合された手法と戦略