Main contents

☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English) おまけTwilog

2020年10月23日金曜日

ドレーク海峡の深海サンゴが明らかにした最終氷期以降の南大洋の深層循環の姿(Li et al., 2020, Sci.Adv.)

Rapid shifts in circulation and biogeochemistry of the Southern Ocean during deglacial carbon cycle events

Tao Li, Laura F. Robinson, Tianyu Chen, Xingchen T. Wang, Andrea Burke, James W. B. Rae, Albertine Pegrum-Haram, Timothy D. J. Knowles, Gaojun Li, Jun Chen, Hong Chin Ng, Maria Prokopenko, George H. Rowland, Ana Samperiz, Joseph A. Stewart, John Southon, Peter T. Spooner

Science Advances  16 Oct 2020: Vol. 6, no. 42, eabb380


南大洋ドレーク海峡で採取された深海サンゴのδ11B・Δ14C・δ15N分析から、最終退氷期の海洋炭素循環を復元。

氷期-間氷期スケールの大気中CO2濃度変動(この論文では最終退氷期に焦点)と海洋炭素循環との関係が議論の中心。

※この話題はこのブログでもよく取り上げているので科学的背景は割愛。


共著者に名を連ねる、A. Burke博士とL.F. Robinson博士が2012年のサイエンスで、同深海サンゴのU/Th分析・14C分析から最終退氷期の深層循環・炭素循環について議論しているが、この論文も同じくドレーク海峡の深海サンゴの分析の結果を報じている。


主要なプロキシは

・14C(海水の古さ)

・δ11B(海水pHプロキシ ※今回は測定しておらず、先行研究からの引用)

・δ15N(海洋表層の栄養塩利用効率のプロキシ ※今回は測定しておらず、先行研究からの引用)


14C分析のサンプル数が3倍程度になったのが特徴らしい。

δ15Nの分析結果は、Wang et al., 2017, PNASですでに報告済みだが、当時はすべての試料についてのU/Th分析がなされていなかった。結果的に一部の試料の年代は、他のU/Th年代・14C年代の両方が得られた試料を参考にして、14C年代からU/Th年代を推定していたらしい(reconnaissance time scale)。


すべての試料に対してU/Th年代によって高精度の年代軸が得られた結果、南極アイスコアとの対比もより楽になった。


SAMWやAAIWに相当する深度のサンゴから復元された海水の14C年代は、LGM時点で大気よりも1400年古かった。

一方、UCDWに相当する深度のサンゴから復元された海水の14C年代は、LGM時点で大気よりも2100年古かった(完新世は1200年古かった)。


最終退氷期を通じて、海水の古さが緩まっており、氷期に深層水に炭素が蓄えられていたことが大気中CO2濃度の低下の一要因であったという説と整合的。


同じ深海サンゴのδ11BはLGMに海水pHが低下しており、より多くの溶存炭素が深層水に存在したことと整合的。

また、δ15Nは海洋表層におけるより効率的な栄養塩利用(つまり生物一次生産)が存在し、より多くの炭素が表層から深層へ輸送(生物ポンプ)されていたことを示しており、上記の説と整合的。


最終退氷期には、深層水の14C年代の若返りとともに、海水pHがより増加(溶存炭素が失われた)していた。

湧昇の強化によって炭素・栄養塩に富んだ深層水が湧き上がったが、栄養塩利用効率は次第に低下していた(おそらく鉄肥沃の緩和→生物ポンプ低下)。

深層へと炭素を戻す働き(生物ポンプ)よりも、大気へと散逸する効果が打ち勝った結果、大気中のCO2濃度が増加した。


残念ながら、最終退氷期でもっとも大きな大気中CO2濃度上昇のあったHS1(18.0-16.3 ka)は深海サンゴの記録がほとんどカバーできておらず、変動もほとんどないように見える。


最終退氷期には、いくつかの急上昇イベントを伴いながら、大気のCO2濃度が約80 ppm増加した。

以下に、際立った4つの時代の古気候学的特徴と、南大洋の記録との関係を述べる。


・14.6 ka、11.7 kaの大気CO2急上昇イベント

北半球高緯度は温暖化し、AMOCは強まっていた(氷期に停滞していたNADWの形成再開)。

南半球の偏西風は北上し、湧昇域が増加した。

湧昇によって多くの栄養塩が表層にもたらされた結果、外部輸送(生物ポンプ)もさかんだったが、表層の生物一次生産は非効率的だった。

南大洋の中層水のpHは非常に低かった。


・16.3 ka、12.8 kaの大気CO2急上昇イベント

北半球高緯度は寒冷化し、AMOCは弱まっていた(NADWの形成停滞)

南半球の偏西風は南下

1,700m深いの海水の14C濃度は大気の14C濃度に近づき、完新世よりも若返っていた(非常に大気に近い値に)。

南大洋で混合層が深まり、より深い対流が起きていたため?