Nature
Volume 491 Number 7426 pp637-790 (29 November 2012)
"THE HEAT IS ON"
温暖化が始まる
2013年1月には京都議定書によって定められていた「2012年までに1990年時のCO2排出の5%量を削減する」という国際条約が期限を終え、気候に関する国際的な規制はなくなる。明らかに我々は主目的を達成できておらず、温室効果ガス排出を削減することの障壁となっているものを失くすために次の十年間に何をなすべきかが問われている。
EDITORIALS
A way to buy time
時間を買う方法
先日外交官がドーハにおいて京都議定書に次ぐ新たな気候変動緩和に向けた枠組みの作成を話し合ったが、2020年までに効果のある国際条約を2015年までに完成させるという目標が謳われた。気候変動がゆっくりと歩み寄ってくる中、エネルギー効率を上げることが排出量の増加を遅めてくれるかもしれない。
RESEARCH HIGHLIGHTS
Carbon drop in snail shell shock
巻貝の殻に対する炭素ドロップの衝撃
Nature Geosci. http://dx.doi.org/ 10.1038/ngeo1635 (2012)
2050年までに南大洋の表層200mはアラゴナイトに関して不飽和になることが予想されている。2008年に南大洋において採取された翼足類の一種(Limacina helicina antarctica)の殻を飽和度が0.94-1.12の海水に8日間曝したところ、同様の溶解が確認された。研究者らは従来考えられていたよりも早く南大洋における海洋酸性化の生態系・炭素循環へのダメージが起きる可能性を指摘している。
>問題の論文
Extensive dissolution of live pteropods in the Southern Ocean
N. Bednaršek, G. A. Tarling, D. C. E. Bakker, S. Fielding, E. M. Jones, H. J. Venables, P. Ward, A. Kuzirian, B. Lézé, R. A. Feely and E. J. Murphy
>その紹介記事
A sea butterfly flaps its wings
Justin B. Ries
Blue whales roll with it
シロナガスクジラは流れに乗る
Biol. Lett. http://dx.doi.org/ 10.1098/rsbl.2012.0986 (2012)
カリフォルニア沖においてシロナガスクジラ(Blue whales; Balaenoptera musculus)にセンサーを付けて観察をしていたところ、食料探しの際に360°体を回転させていることが分かった。オキアミを最大限口に入れるため、周囲をしっかり見るための行動であると考えられている。
Fossil hints at star’s salty past
ヒトデのしょっぱい過去に関する化石のヒント
PLoS ONE 7, e49798 (2012)
現在棘皮動物は普通の海にしか生息していないが、ポーランドの石切り場から得られた化石記録から、ジュラ紀中期(240Ma)のクモヒトデの一種(Aspiduriella similis)が超高塩分水に生息していたことが分かった。従来棘皮動物の化石が海の環境指標として使われてきたが、注意する必要がある。
Birds of a different feather
異なる羽毛を持つ鳥
Curr. Biol. http://dx.doi. org/10.1016/j.cub.2012.09.052 (2012)
古代の鳥の羽は現在の鳥のものと類似していると考えられていたが、羽の構造に違いがあるらしい。2種類の化石(Archaeopteryx lithographica 、Anchiornis huxleyi)の観察から、おそらく古代の鳥は木の上から飛び降りて滑空するように空を飛んでいたと思われる。
SEVEN DAYS
※今回は省略
NEWS IN FOCUS
Growth of ethanol fuel stalls in Brazil
ブラジルにおいてバイオエタノールの成長が失速する
Claudio Angelo
Daily dose of toxics to be tracked
追跡すべき日々の毒への暴露
Ewen Callaway
FEATURES
Legacy of a climate treaty: After Kyoto
気候条約の伝説:京都のあと
The global energy challenge: Awash with carbon
グローバルなエネルギー課題:炭素でいっぱい
Jeff Tollefson & Richard Monastersky
The Kyoto Protocol: Hot air
京都議定書:熱い空気
Quirin Schiermeier
Adapting to a warmer world: No going back
より暖かい世界に適応する:もう戻れない
Olive Heffernan
COMMENT
The Kyoto approach has failed
京都議定書のアプローチが失敗した
Cap and trade finds new energy
Cap and Tradeが新たなエネルギーを作る
Q&AS
Turning point: Sarah Aciego
ターニング・ポイント:Sarah Aciego
Virginia Gewin
地球化学者のSarah Aciegoは気候変動が海水準上昇に与える寄与を見積もるために、氷の年代測定を行っている。
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RESEARCH
BRIEF COMMUNICATION ARISING
Causes of an ad 774–775 14C increase
AD774-775の放射性炭素の増加の原因
Adrian L. Melott & Brian C. Thomas
Miyake et al. (2012, Nature)はAD774-775の大気中の放射性炭素量の急増をコロナ質量放出が原因と推測しているが、モデル計算によると観察されたほどの大きな急増は説明できないことを指摘する。またMiyake et al. (2012, Nature)が指摘するような、太陽フレアによる大きな災害(人工衛星の故障、地上の電子機器の故障など)やオゾン層破壊による大量絶滅の可能性は低い。
NEWS & VIEWS
Forests on the brink
寸前の森
Bettina M. J. Engelbrecht
異なる木の干ばつに対する生理学的な脆弱性に関する研究から、世界中の森林が干ばつに対して等しく脆弱であることが分かった。干ばつの頻度が上昇することで危険度が高まる。
Magma chambers on a slow burner
ゆっくりしたバーナーの上のマグマ溜まり
Albrecht W. Hofmann
PERSPECTIVES
Making sense of palaeoclimate sensitivity
古気候の感度を理解する
PALAEOSENS Project Members
多くの古気候研究は人為起源の影響が起きる以前の気候に着目し、気候感度を計算するが、手法が統一されていないことで推定値が広くなってしまったり、結果の比較がしにくくなったりという問題がある。そこでより厳しいアプローチで過去6500万年間の古気候を分析し、総合する研究によって、CO2が2倍になった際の温度上昇として「2.2 - 4.8℃(68%の信頼性)」という数値が得られた。
The mystery of recent stratospheric temperature trends
最近の成層圏の温度上昇の謎
David W. J. Thompson, Dian J. Seidel, William J. Randel, Cheng-Zhi Zou, Amy H. Butler, Carl Mears, Albert Osso, Craig Long & Roger Lin
人工衛星の放射輝度の観測結果に基づいて、成層圏の中部-上部の温度を分析し直したところ、1979-2005年における成層圏の気候変動はこれまでの温度の記録とは全く異なることが分かった。この新しい記録は、我々の成層圏の近年の温度変化の傾向の理解や、温室効果ガスやオゾン層を破壊する物質に対する成層圏の挙動のシミュレーションする能力などに疑問を呈するものである。新たなデータから分かる重要事項をハイライトし、気候科学のコミュニティーとしてそれらをどのように解決すべきかを提案する。
ARTICLES
The global pattern of trace-element distributions in ocean floor basalts
海底玄武岩の微量元素分布の全球パターン
Hugh St C. O’Neill & Frances E. Jenner
LETTERS
An over-massive black hole in the compact lenticular galaxy NGC 1277
小型のレンズ状銀河:NGC1277における大きすぎるブラックホール
Remco C. E. van den Bosch, Karl Gebhardt, Kayhan Gültekin, Glenn van de Ven, Arjen van der Wel & Jonelle L. Walsh
Active upper-atmosphere chemistry and dynamics from polar circulation reversal on Titan
タイタンの極における逆循環から明らかになる大気上層の活発な対幾何学・力学
Nicholas A. Teanby, Patrick G. J. Irwin, Conor A. Nixon, Remco de Kok, Sandrine Vinatier, Athena Coustenis, Elliot Sefton-Nash, Simon B. Calcutt & F. Michael Flasar
Rapid coupling between ice volume and polar temperature over the past 150,000 years
過去150kaにおける氷床量と極域の気温の早い結合
K. M. Grant, E. J. Rohling, M. Bar-Matthews, A. Ayalon, M. Medina-Elizalde, C. Bronk Ramsey, C. Satow & A. P. Roberts
過去150kaの高時間解像度の海水準の記録から氷床量の変動が南極や特にグリーンランドの気候と非常に一致した変動をしていることが分かった。氷床量変動の振幅はグリーンランドというよりはむしろ南極の気候変動とよく一致している。極域の気候変動と氷床量とは数百年の応答時間でともに変動している。氷床量が減少する際には、少なくとも100年に1.2mの割合で海水準は上昇していた。
Development of teeth and jaws in the earliest jawed vertebrates
最も初期の脊椎動物の歯と顎の発達
Martin Rücklin, Philip C. J. Donoghue, Zerina Johanson, Kate Trinajstic, Federica Marone & Marco Stampanoni
Global convergence in the vulnerability of forests to drought
干ばつに対する森林の脆弱性の全球的な収束
Brendan Choat et al.