Nature
Volume 491 Number 7425 pp495-632 (22 November 2012)
EDITORIALS
Water wars
水戦争
欧州は薬剤による環境汚染を防ぐため、予防原則にのっとって早急に規制を実施すべきだ。
WORLD VIEW
How resilient is your country?
あなたの国はどれくらい回復力がある?
異常気象の発生頻度は上昇しつつある。「政府は国家的な・統合されたリスク管理戦略を整えなければならない」とErwann Michel-Kerjanは言う。
RESEARCH HIGHLIGHTS
More creatures under the sea
海の下により多くの生物
Curr. Biol. http://dx.doi. org/10.1016/j.cub.2012.09.036 (2012)
海洋生物の3分の1〜3分の2は未発見であると研究者は推定している。
Volcanoes swell before blasting
火山は噴火の前に膨らむ
Geophys. Res. Lett. http://dx.doi.org/ 10.1029/2012GL053817 (2012)
地球上で最も活発な火山帯の一つであるSunda島弧では、火山噴火前に火山の中心部が隆起することが噴火の前兆として信頼できるかもしれない。スマトラ・ジャワ・バリ島の76の火山における2006-2009年にわたる調査から、隆起しつつある6つの火山のうち、3つはその後まもなく噴火した。マグマが比較的浅いようなインドネシアの火山は「隆起」が噴火の前兆になると研究者は推定している。
Encounter with a rogue planet
ごろつきの惑星に出くわす
Astron. Astrophys. 548, A26 (2012)
天文学者は中心星を持たずに宇宙空間を彷徨っている惑星のうち、最も地球から近く、最も信頼できるものを発見した(CFBDSIR2149)。それらしい惑星は1990年代には既に発見されていたが、年代がよく分からなかったためにbrown dwarfsと呼ばれる恒星と見分けることができていなかった。木星の4 - 7倍の質量を持っていると推定されている。
Ancient origin for gut microbiome
腸内細菌の古の起源
Nature Commun. 3, 1179 (2012)
ヒトとチンパンジーはDNAの96%を共有しているが、腸内細菌の基本構成もかなり似ているらしい。それは腸内細菌グループは古代には既に形成され、ヒトと猿が進化において分岐する際に受け継がれたことを物語っている。
Aphids borrow plant plumbing
アブラムシは植物の配管を借りる
Nature Commun. 3, 1187 (2012)
アブラムシの一種は植物に巣を作って身を隠すが、寄生している植物の流体輸送システム(fluid transport system)を利用して自らの排泄物を除去しているらしい。産総研の研究者らは、アブラムシの巣に染色した液体などを注入してその除去の仕方を観察したところ、ある種は液体を吸収しやすい壁を作り、植物の導管を利用して液体を排出した。また別の種はロウ状の液体を吸収しない開いたコブを作ったという。
SEVEN DAYS
Climate warning
気候の警告
世界銀行が11/18に提出した報告書によると、今世紀末に平均気温が4℃温暖化した場合、生態系・農業・人間の健康の点で危機的な状況が予想されるという。温暖化を2℃に抑えることはまだ可能だが、それには迅速な行動が必要であるという。
Catch contained
大西洋と地中海におけるクロマグロの漁獲制限が年間13,500トンに引き上げられた。これは科学者の忠告に基づく数字ということで、WWFをはじめとする保護論者は喜んでいる。
より詳細な記事(英語)
Fishing action
漁業の行動
欧州委員会(European Commission)は8つの国(Belize、Cambodia、Fiji、Guinea、Panama、Sri Lanka、Togo、Vanuatu)に対し、違法漁業の規制に対して非協力的な国家だとして警告を発した。
Galapagos poison
ガラパゴスの毒
環境保護者はガラパゴス島固有の植物や動物の卵を食べる外来性のネズミを駆除するために、毒餌をガラパゴス島の2つの島にばらまき始めた。エクアドル政府と保護団体が主体となっている。
Sea mining stopped
海洋の採鉱が停止した
カナダのトロントに本社を置く鉱山会社Nautilus Mineralsはパプアニューギニア沖の1,600mの深海底における金・銀・銅の採掘を中止することを11/13に宣言した。費用の問題でパプアニューギニア政府との問題を抱えており、深海底の生態系保護の必要性などの批判も受けていた。
より詳細な記事(英語)
Spill settlement
油流出の示談金
British Petroleum(現BP)は、メキシコ湾の石油流出事故(Deepwater Horizon)に対する罰金として、40億ドル(約320億円)の支払いを命じられた。これほどの多額の罰金はアメリカ史上最大で、今後30年間の人間への健康被害や環境への影響をモニタリングする研究の目的のために、National Fish and Wildlife Foundationに24億ドル、National Academy of Sciencesに3億5千万ドルが支払われる。
NEWS IN FOCUS
Drug-pollution law all washed up
薬物汚染の法案がすべて水の泡に
Natasha Gilbert
環境ホルモンによる水質汚染を規制するEUの取り組みが、コスト問題での反対で暗礁に。
Hunt for life under Antarctic ice heats up
南極の氷の下の生命探しが白熱している
Quirin Schiermeier
イギリス・アメリカの共同研究チームは3kmもの厚さの南極の氷を掘削し、その下にあるEllsworth湖の調査を行う。生命の発見に熱い期待が寄せられている。
Lab astrophysics aims for the stars
星を目標にした研究室での天体物理学
Eugenie Samuel Reich
天体物理学分野で、地上での実験が有用な研究手法に。
FEATURES
Life in the concrete jungle
コンクリート・ジャングルの生命
Courtney Humphries
生態学者は世界の都市部において、人間・建物・野生生物・汚染がどのように相互作用しているのかを研究している。
CORRESPONDENCE
Tightening up on tree carbon estimates
木の炭素量推定を強化する
Rosa C. Goodman, Oliver L. Phillips & Timothy R. Baker
従来熱帯雨林のバイオマスの量を推定する際に、木の「幹の直径」「高さ」「密度」などが用いられてきたが、アマゾン南西部のshihuahuaco tree (Dipteryx micrantha)についてはこの方法で重さを見積もると本来の17 - 98%の重さになってしまう。木ごとの炭素量は大きく異なる可能性があり、熱帯雨林のバイオマス推定には気をつける必要がある。巨木の成長に対する理解を改善する必要がある。
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RESEARCH
NEWS & VIEWS
Sharpening the mind
思考を形作る
Sally McBrearty
南アフリカから発見された、71,000年の年代値を持つ石の道具の発見より、それらを作った人類が複雑な思考をする能力を発達させていたこと、そしてその知識を次の世代に引き継いでいたことが分かった。
Stem cells bear eggs
幹細胞が卵を産む
Sihem Cheloufi & Konrad Hochedlinger
研究者は正常な子孫を生み出すことのできる卵に発生・分化する幹細胞を作り出した。この発見は生殖細胞形成の高分子的な原理の解明や、不妊治療に役立つと考えられる。
A piece of the methane puzzle
メタンパズルの1つのピース
Samantha B. Joye
援助なしでメタンを嫌気酸化することのできる海底微生物の同定は、この温室効果ガスの海洋から大気へのフラックスがどのように支配されているかに関する我々の見方を変えた。
ARTICLES
Zero-valent sulphur is a key intermediate in marine methane oxidation
ゼロ価の硫黄が海洋のメタン酸化の重要中間体
Jana Milucka, Timothy G. Ferdelman, Lubos Polerecky, Daniela Franzke, Gunter Wegener, Markus Schmid, Ingo Lieberwirth, Michael Wagner, Friedrich Widdel & Marcel M. M. Kuypers
海底堆積物中のメタン排出は、基本的には硫黄還元と関連したメタンの嫌気酸化によってコントロールされている。硫黄還元はmethanotrophic古細菌と硫酸還元Deltaproteobacteriaの共同体によって媒介されると考えられてきたが、メカニズムは分かっていなかった。硫酸還元の際に新たな経路を介してゼロ価の硫黄化合物が形成されることが分かった。
Natureの日本語訳
LETTERS
Albedo and atmospheric constraints of dwarf planet Makemake from a stellar occultation
掩蔽から明らかになる準惑星マケマケのアルベドと大気の制約
J. L. Ortiz, B. Sicardy et al.
冥王星とエリスは、分光学的な研究によって明らかにされたように、ほぼ同じ大きさで、同等の密度と似たような表面組成を持った、凍った準惑星である。冥王星には大気があるが、エリスにはなく、その違いはおそらく太陽からの距離が異なることに起因し、アルベドが異なることも説明できる。マケマケはエリスや冥王星に似たスペクトルを持つ氷でできたもう1つの準惑星であり、太陽からの距離は2つの準惑星の中間である。マケマケの大きさ(1,420 ± 60 km)とアルベドはおおまかには分かっているが、密度に対する制約はこれまでなく、冥王星のような大気を持つだろうと予想されていた。
2011年4月23日のマケマケによる掩蔽から得られた結果から、恒星食の弦に適合する我々が選択した解は、投影された径が1,430 ± 9 kmと1,502 ± 45 kmの天体に相当し、(v-band)幾何アルベドが p V = 0.77±0.03であることを示す。このアルベドは冥王星のアルベドよりも大きいがエリスのそれよりは小さい。恒星の潜入と出現は急激であり、マケマケには局所的な大気が存在する可能性はあるが、表面気圧で4~12ナノバール(1σ)を上限値として、冥王星のような全球的な大気は存在しないことを示している。このデータから、密度は 1.7 ± 0.3 g/cm3と推測される。
Natureの日本語訳
Lower satellite-gravimetry estimates of Antarctic sea-level contribution
人工衛星の重力観測に基づいた南極の海水準への寄与のより小さい推定値
Matt A. King, Rory J. Bingham, Phil Moore, Pippa L. Whitehouse, Michael J. Bentley & Glenn A. Milne
近年の南極氷床融解に伴う海水準上昇の寄与の推定値は文献によって大きく異なる。特にGRACE衛星観測から得られているデータに基づいた推定値はGIA(glacial isostatic adjustment)による質量変化のモデル間の不確実性によって支配されてしまう。新たなGIAのモデルは地質学的な観察結果ともよく一致しており、従来のモデルよりも小さいことが分かった。このモデルに基づき推定を行ったところ、南極大陸は年間69 ± 18 Gtの割合で縮小しており、海水準を年間0.19 ± 0.05 mmの割合で上昇させていると推定される。これは最近の推定値の3分の1から半分程度である。特にAmunden海の質量低下と流出速度の加速が顕著であるという。また西南極はだいたい平衡、東南極はやや質量が増えているらしい。
Natureの日本語訳
An early and enduring advanced technology originating 71,000 years ago in South Africa
71,000年前の南アフリカに端を発する初期の、そしてその後継続する発達した技術
Kyle S. Brown, Curtis W. Marean, Zenobia Jacobs, Benjamin J. Schoville, Simen Oestmo, Erich C. Fisher, Jocelyn Bernatchez, Panagiotis Karkanas & Thalassa Matthews
Natureの日本語訳