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☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English) おまけTwilog

2012年11月16日金曜日

新着論文(Science#6109)

Science
VOL 338, ISSUE 6109, PAGES 853-1000 (16 NOVEMBER 2012)

Editors' Choice
The Shape We’re In
我々がいる形
Geophys. Res. Lett. 39, L20502 (2012).
温暖化していることは疑いの余地がないが、どれほど早く起きるかは地域ごとに異なる。最も早く温暖化している地域が北極である。2012年7月にはグリーンランド氷床における融解が全体の98%にも及んでいたことが衛星観測データや地上観測の記録から明らかになった。氷床の融解は過去800年間でも2回しかなく、そうした大規模な融解がどれほどの規模でどれほどの頻度で起きるかを予測することが重要である。

Less Snow in the Arctic
北極のより少ない雪
Geophys. Res. Lett. 39, L19504 (2012).
北半球の高緯度地域では降雪の時空間変動が大きく、モニタリングを複雑にしている。NOAAによって1967年から行われている降雪の衛星観測記録のうち春の記録を抜き出し解析したところ、北米とユーラシアにおいて有意に雪の被覆度が減少しており、2000年頃からさらに減少が加速していることが分かった。北半球全体で10年に17.8%の割合で低下しており、モデルの予測結果(10.6%)よりも早い融解が起きていることが明らかになった。
>問題の論文
Spring snow cover extent reductions in the 2008-2012 period exceeding climate model projections
Chris Derksen & Ross Brown

Tsunamis of the Past
過去の津波
Geophys. Res. Lett. 10.1029/2012GL053692 (2012).
2011年に東北沖で起きた地震は災害マップには描かれていない想定外のものであったが、地質調査所の澤井祐紀らは放射性炭素年代測定や珪藻の種組成などの復元から、400にわたる貞観津波(869CE)の津波堆積物を明らかにした。モデルと組み合わせて、当時の地震のマグニチュードはM8.4と推定されている。沿岸から1.5km内陸でも堆積物が確認された。また再来周期は500-800年で、従来考えられていたよりも大地震が起きる地域であったらしい。
>問題の論文
Challenges of anticipating the 2011 Tohoku earthquake and tsunami using coastal geology
Yuki Sawai, Yuichi Namegaya, Yukinobu Okamura, Kenji Satake, and Masanobu Shishikura

News of the Week
A Place for All at The Climate Science Table
気候変動に関わるすべての人がテーブルを囲むための場所
オランダ政府は気候変動に関するオンラインでの対話を行うためのwebsiteを今週立ち上げた。初回のテーマは「北極海の海氷の融解」。3人のアメリカの気候学者が海氷後退の原因やいつ海氷が消失するかなどを議論する。議会は懐疑派も議論に組み込むよう要請しており、また科学者や現役をリタイアした経済界の上役などから構成されるアドバイス委員会が中立性を管理する。

Rejecting GM Food Labels, Backing Education
遺伝子組み換え食品のラベルを拒否し、教育を支援する
カリフォルニア市民は11/6に行われた投票で議題番号37番「すべての遺伝子組み換え食品に表示を義務化する」に対して反対票53%で議案を棄却した。一方で議題番号30番「7年間にわたり富裕層の税金を引き上げることと、消費税を0.25%引き上げる」に対しては賛成票54%で議案が通った。税金によって教育に対する予算削減が防がれる予定。

News & Analysis
Researchers Lobby to Spare Science From E.U. Budget Cuts
EUの宇宙科学に対する予算削減に対して研究者が陳情する
Gretchen Vogel
EUにおける予算削減は研究以外の分野でされるべきだと言う声が、ヨーロッパの研究者の間でこだましている。

News Focus
Winds of Change
変化の風
Jane Qiu
 南極の将来は太陽の下に曝された氷のようには単純な運命を辿るわけではない。南極半島におけるアデリーペンギンの個体数は減少しつつあり、原因は気候変動であると考えられる。南極半島の気温はここ50年間で2℃温暖化しており、冬の気温は6℃も上昇している。10ある氷河のうち9は後退している。ただし、コロラド州立大の気候学者David Thompsonによると、温度上昇だけでなく風系の変化も寄与しているという。風による撹拌で深層水との混合が起き、有光層の生態系にも影響が見られるという(例えば、過去30年間で植物プランクトン量は12%減少)。
 南極においては南半球の冬におけるオゾン層の変化も地表の気温や偏西風の位置に影響を与える。南極の太平洋に面したAmunden海では太平洋全体と同じく近年温暖化の傾向にあるが、太平洋中部の暖かい水が大気海洋循環を通して伝播していることが原因と考えられる(ENSOの影響も)。
 南極周回流は世界で最も早く流れる海流であるが、同じく温度を南極へと伝えるのに大きな役割を負っている。南極周回流の中層水の温度は1950年以来約0.2℃温度が上昇している(全球の変化の2倍に相当)。
 南極半島の大陸棚は湧昇流が起きやすい海域であるが、海水温上昇のうち8割は表層よりも暖かい中層水の湧昇が原因と推定されている。南極周辺では同時に底層水の形成も起こっている(AABW)が、主にWeddel海における海氷形成に伴う密度変化が元になって起きている。しかし、近年気温の上昇と海氷が軽くなっていることで底層水の形成速度もここ30年間で10年に1割の速度で低下しつつあるとの報告もなされている。
 南大洋は大気中の二酸化炭素を深海へと輸送する役割を負っており(全球の吸収量の4割を担う)、それは人為起源の二酸化炭素排出を打ち消す効果があるが、近年その吸収力が落ちつつあるという報告もある。

Slip Sliding Away
滑り落ちる
Jane Qiu
南極Amunden海に流れ込むPine island氷河は年間4kmの割合で流出しており、全球の海水準上昇の4%を担っていると考えられている。2009年に氷河の下を無人探査機で調査したところ、氷河の下に空いた穴から融け水が流出していることが判明した。その穴を通して暖かい深層水が氷を活発に融かしていると考えられている。またFilchner-Ronne棚氷の海面下は21世紀の終わり頃には2℃上昇するという気候モデルの予測結果もある。

Policy Forum
The Green Economy Post Rio+20
Edward B. Barbier

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Research
Perspectives
Convergent Evolution of Hearing
聴覚の収束進化
Ronald R. Hoy
熱帯雨林の昆虫類の聴覚の機能的・解剖学的側面は人間のそれに類似している。

Mediterranean Island Voyages
地中海島への航海
Alan Simmons
考古学の研究から、従来考えられていたよりも早く人類が地中海に到達していたことが明らかになった。

A Vitrage of Asteroid Magnetism
天体の磁性のVitrage
Benjamin P. Weiss
岩石状の鉄隕石(pallasite Esquel)は天体のコアとはかけ離れた起源を明らかにする、過去の磁気を記録している。

Reports
Evidence for a Dynamo in the Main Group Pallasite Parent Body pallasite
John A. Tarduno, Rory D. Cottrell, Francis Nimmo, Julianna Hopkins, Julia Voronov, Austen Erickson, Eric Blackman, Edward R.D. Scott, and Robert McKinley
パラサイト隕石の成因についてはよく分かっていない。わずかな磁性の測定から古磁気を推定したところ、パラサイト隕石の元となった母天体におけるダイナモの存在が示唆される。熱力学的なモデリングから、天体衝突の際に鉄ニッケルが~200kmほどの直径の母天体のマントル浅部へとダイクを通して注入されたことでパラサイトが形成された可能性が示唆される。

Evidence for Early Hafted Hunting Technology
初期のHafted(柄のついた)狩猟技術の証拠
Jayne Wilkins, Benjamin J. Schoville, Kyle S. Brown, and Michael Chazan
南アフリカの考古学遺跡から発掘された50万年前の石鏃の傷はそれらがネアンデルタール人とホモサピエンスの祖先によって矢の先として使われていたことを暗示している。従来考えられていたよりも20万ほど早いらしい。

Financial Costs of Meeting Global Biodiversity Conservation Targets: Current Spending and Unmet Needs
全球的な生物多様性保護目標を達成するための費用:実際の支払額と満たされていない需要
Donal P. McCarthy, Paul F. Donald, Jörn P. W. Scharlemann, Graeme M. Buchanan, Andrew Balmford, Jonathan M. H. Green, Leon A. Bennun, Neil D. Burgess, Lincoln D. C. Fishpool, Stephen T. Garnett, David L. Leonard, Richard F. Maloney, Paul Morling, H. Martin Schaefer, Andy Symes, David A. Wiedenfeld, and Stuart H. M. Butchart
世界中の政府が2020年までに人為起源の絶滅を防ぎ、生物多様性に重要な地域の保護をすることを取り決めたが、そうした目標を達成するための費用については不確かなままである。絶滅に瀕している鳥類に着目して保全にかかる費用を試算したところ、現在実際にかかっている費用に比べて数倍〜数十倍の費用がかかる計算となった(〜761億ドル)。

Convergent Evolution Between Insect and Mammalian Audition
昆虫とほ乳類の聴覚の収束進化
Fernando Montealegre-Z., Thorin Jonsson, Kate A. Robson-Brown, Matthew Postles, and Daniel Robert
収束進化の例として、熱帯雨林のキリギリスはほ乳類と同様の聴覚を持っている。