地域的な軌道要素フォーシングによって引き起こされる西南極氷床の最終退氷期の温暖化の始まり
WAIS Divide Project Members
Nature 500, 440-444 (2013).
>関連した記事(Nature注目のハイライト)
南極の退氷を駆動する局地的な条件
南極の退氷を駆動する局地的な条件
より。
南極から新たに得られた、西南極氷床区画のアイスコア(West antarctic ice sheet Divide ice Core; WDC)から分かった、最終退氷期の始まりにおける南極の温暖化の全球気候変動との前後関係について。
2011年に、西南極の高度1,766 mの地点にて全長3,405 mのアイスコアが採取された(基盤岩の50m上まで)。
Byrd基地からは24km西に位置する。
アイスコアの最新部の年代はおおよそ68kaで、基本的に年縞を数えることで独自の年代モデル(WDC06A-7)が作成され、グリーンランド・アイスコアのGICC05や中国Hulu洞窟の鍾乳石のウラン-トリウム年代とのクロスチェックが行われている。
今回の解析で特に重要なのは、
「堆積速度(accumulation rate)」「酸素同位体(δ18O)」「海塩起源のNa(ssNa; sea salt sodium)」
で、それぞれ
「降雪量」「気温と水蒸気輸送」「海氷範囲と大気循環」
を反映していると考えることができる。
それぞれのプロキシの説明などは「アイスコア〜地球環境のタイムカプセル」(藤井理行ほか、2011年、成山堂書店)」などに詳しい。
これまでに得られた古気候学的記録の解釈からは、北半球65ºNにおける夏の日射量の増加が退氷(ターミネーション)に重要であり(ミランコビッチ仮説)、
さらに融水が北大西洋に注ぎ込んだことで大西洋子午面循環(AMOC)が弱化し、過剰の熱が南半球へと伝播したこと(バイポーラー・シーソー)が、18kaから始まる
- 北半球全体の寒冷化(ハインリッヒ・イベント1)
- 南半球の温暖化
- 大気中CO2濃度上昇
- 熱帯収束帯(ITCZ)と偏西風の南下
- アジアモンスーンの弱化
などの全球的に同期した気候変動を支配していたと解釈されている。
>参考(拙ブログ論文概説「最終退氷期の南極気温とCO2濃度の時間差(Parrenin et al., 2013, Science)」)
しかし、西南極から得られたWDC・Byrdアイスコアはむしろ20ka(2,000年先立つ)から温暖化が始まったことを物語っており、東南極から得られたアイスコアの解釈に疑問を投げかけている。
堆積速度が増加するのは18kaであるものの、δ18O/ssNaは20kaに有意な増加/減少が確認されている。
つまり、気温の増加/海氷範囲の縮小(なぜ?直感と逆センス…)を示している。
彼らはそれを南極における「ローカルな日射量(特に夏)」と「海氷範囲の縮小」が原因と考察している。またそれはLGMの背景場でなされた大気循環シミュレーションからも再現され、西南極が海の変化に敏感に応答した可能性が示唆される。
日射量やアルベドを考慮しても十分海氷を縮小させるには十分な量と見積もられている。
一方の東南極は内陸部で高度も高いため、海の変化に対してより鈍感であったと考えられている。
彼らの解釈では、20ka頃から南極周辺の海氷はローカルな夏の日射量の増加によって縮小し、それによって西南極は東南極に先立って温暖化していたとされる。
そして18ka以降、東・西南極ともにバイポーラー・シーソーによる温暖化が始まった。
この解釈は大西洋南東部から得られた堆積物から復元された海氷範囲の解釈とも整合的だという。
>話題の論文
High-resolution reconstruction of southwest Atlantic sea-ice and its role in the carbon cycle during marine isotope stages 3 and 2 Lewis G. Collins, Jennifer Pike, Claire S. Allen, and Dominic A. Hodgson
PALEOCEANOGRAPHY 27, doi:10.1029/2011PA002264 (2012)
一口に南極といえども巨大な大陸なので、今後は西・東の区別に代表されるような、より丁寧な取り扱いが必要なのかもしれない。
ただし、今回のような知見は極めて解像度の高いアイスコアが得られて初めてもたらされるのだということを注記しておく。