E. H. Shadwick, T. W. Trull, H. Thomas & J. A. E. Gibson
Scientific Reports 3: 2339, doi: doi:10.1038/srep02339
本論文は第3回の国際極観測年(3rd International Polar Year)の一環で行われた、北極圏カナダの「Amundsen湾」と東南極の「Pridz湾」で測定された、初の年間を通しての海水炭酸系の測定結果を報告している。
>参考(以前書いた論文概説)
海洋酸性化の現状(レビュー)(Doney et al., 2009, Oceanography)
海洋酸性化の現状(海洋化学の視点から)(Feely et al., 2009, Oceanography)
北極と南極を比較して興味深いのは、まずは北極と南極の温度の季節変動の差である。
北極は温度変化が10℃近いのに対し、南極はわずかに2℃程度。
海洋酸性化で重要になってくるpHやΩは温度依存性が大きいので、温度が一つ重要な変数となる。
次いで塩分の違いも特筆すべきである。
ともに海氷が張り出す冬には増加し(brine rejection)、海氷が融解+河川からの淡水流入する春〜夏にかけて減少する。
DIC(全炭酸)やTA(全アルカリ度)は希釈の影響を大きく受けるため、注意する必要がある。
ちなみに塩分は北極で小さく、南極で高い。
そのため、北極は南極に比べて、TAが低く、その分炭酸系に対する人為起源のCO2取り込みの影響(つまり海洋酸性化)に対してより脆弱である(緩衝能力が低い)。
もう一つ、高緯度域で必ず注意しなければならないのが、生物生産性が大きいことである。
貧栄養の熱帯・亜熱帯域と異なり、生物による呼吸・光合成・(石灰化)・(溶解)が炭酸系に与える影響が大きい。
例えば、海氷が後退すると海氷の下に棲息する大型藻類の活動が活発になり、炭素が固定される。するとDICが減少するため、pHやΩは急激に増大することになる。
Ωは北極の場合1.6-1.8、南極の場合~3.4まで増大し、海氷に覆われている時期に比べてはるかに高い値を示す。
ただし、北極ではもともとの栄養塩濃度が小さいため、生物生産性は海氷後退(や日射量)ではなく、栄養塩によって制約されている。つまりいくら光があっても栄養塩に乏しいので光合成はいずれ頭打ちになってしまう。
一方の南極はもともと栄養塩が多いものの、生物生産は溶存鉄の利用可能性によって制約されている、いわゆるHNLC海域に属している。南極周辺の場合、鉄は大陸からもたらされる融水や海氷が融けることによって賄われている。
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将来予測
同じ高緯度域であっても、北極と南極では海洋酸性化の進行速度に差がある。
その原因となるのが、「緩衝剤としてのTA」と「生物活動」であると筆者らは考察している。
北極海「Amundsen湾」の記録。1月(北半球の春)〜12月(冬)の記録。 |
南極「Prydz湾」の記録。7月(南半球の春)〜6月(冬)の記録。 |
北極と南極を比較して興味深いのは、まずは北極と南極の温度の季節変動の差である。
北極は温度変化が10℃近いのに対し、南極はわずかに2℃程度。
海洋酸性化で重要になってくるpHやΩは温度依存性が大きいので、温度が一つ重要な変数となる。
次いで塩分の違いも特筆すべきである。
ともに海氷が張り出す冬には増加し(brine rejection)、海氷が融解+河川からの淡水流入する春〜夏にかけて減少する。
DIC(全炭酸)やTA(全アルカリ度)は希釈の影響を大きく受けるため、注意する必要がある。
ちなみに塩分は北極で小さく、南極で高い。
そのため、北極は南極に比べて、TAが低く、その分炭酸系に対する人為起源のCO2取り込みの影響(つまり海洋酸性化)に対してより脆弱である(緩衝能力が低い)。
もう一つ、高緯度域で必ず注意しなければならないのが、生物生産性が大きいことである。
貧栄養の熱帯・亜熱帯域と異なり、生物による呼吸・光合成・(石灰化)・(溶解)が炭酸系に与える影響が大きい。
例えば、海氷が後退すると海氷の下に棲息する大型藻類の活動が活発になり、炭素が固定される。するとDICが減少するため、pHやΩは急激に増大することになる。
Ωは北極の場合1.6-1.8、南極の場合~3.4まで増大し、海氷に覆われている時期に比べてはるかに高い値を示す。
ただし、北極ではもともとの栄養塩濃度が小さいため、生物生産性は海氷後退(や日射量)ではなく、栄養塩によって制約されている。つまりいくら光があっても栄養塩に乏しいので光合成はいずれ頭打ちになってしまう。
一方の南極はもともと栄養塩が多いものの、生物生産は溶存鉄の利用可能性によって制約されている、いわゆるHNLC海域に属している。南極周辺の場合、鉄は大陸からもたらされる融水や海氷が融けることによって賄われている。
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将来予測
同じ高緯度域であっても、北極と南極では海洋酸性化の進行速度に差がある。
その原因となるのが、「緩衝剤としてのTA」と「生物活動」であると筆者らは考察している。
北極海(左)と南極(右)の2007年と2100年のpHとΩの変化。 |
例えば、北極はもともとのTAが小さいため、海洋酸性化はより早く進行する。
また、北極の場合、生物生産によって海洋酸性化を打ち消す働きがやはり栄養塩の枯渇によって制限されてしまう。
一方、南極では追加の鉄の供給を考えずとも、栄養塩は十分にあるとされる。
上の図ではB1排出シナリオ(2100年にCO2濃度が550ppmに達する)での2100年のpHとΩ(ここではより溶解しやすいアラゴナイト)を示したものであるが、北極がほとんど年間を通じて「1」を下回るのに対し、南極では年間の大部分が「1」を超えていることが分かる。
※「Ω = 1.0」が無機的な(熱力学的な)炭酸塩の溶解が起きる閾値と考えられている。
またpHとΩの季節変動が大きいことからも、南極周辺の生物生産がいかに大きいものであるかが見てとれる。
筆者らの予測では、Ωが1を下回るのは北極が南極に比べて15〜54年早いと推定されている(排出シナリオと北極・南極の温暖化の程度に依存)。
筆者らが指摘するように、高緯度域の観測は極めて限られており、本論文も年々変動まで評価するほど観測が十分にはなされていない。
今後も観測を継続する必要があるとともに、世界で最も早く海洋酸性化が進行する海域であるため注視しなければならない。