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2013年8月9日金曜日

氷期-間氷期サイクルで何故10万年周期が卓越するのか(Abe-Ouchi et al., 2013, Nature)

Insolation-driven 100,000-year glacial cycles and hysteresis of ice-sheet volume
日射量に駆動される10万年の氷河周期と氷床体積のヒステリシス
Ayako Abe-Ouchi, Fuyuki Saito, Kenji Kawamura, Maureen E. Raymo, Jun’ichi Okuno, Kunio Takahashi & Heinz Blatter
Nature 500, 190–193 (08 August 2013)

Solution proposed for ice-age mystery
氷河期の謎に対して提案された解決策

Shawn J. Marshall
Nature 500, 159–160 (08 August 2013)
より。

東京大学・大気海洋研究所、阿部彩子准教授らによる研究成果で、モデルシミュレーションを用いて第四紀後期の氷期-間氷期サイクルにおいて何故10万年周期が卓越するのかの説明を提示。


海洋堆積物中の底性有孔虫のδ18Oの分析によって、氷期-間氷期サイクルが判明し、それがいわゆるミランコビッチ仮説(※)によって説明できることが示されてから30年以上の歳月が経過しました。
※地球の公転軌道の変化によって、全体的な日射量には変化はないものの、主に北半球高緯度地域の日射量が大きく変動したことが氷床の拡大・縮小に重要だったとする説。
離心率(eccentricity・10万年周期)・歳差運動(precession・2万年周期)・地軸傾動(obliquity・4万年周期)変動の重ね合わせによる。

しかし、離心率の10万年周期が日射量に与える影響は小さく、それが何故氷床を大規模に変動させるのかについては分かっておらず、世界各国の一流の古気候学者がその謎の解明に取り組んでいます。

阿部彩子准教授は大気海洋大循環モデル(MIROC)を用いて地球温暖化の将来予測や古気候シミュレーションを行っていますが、MIROCと氷床モデル(IcIES、JAMSTECの齋藤冬樹さんが中心になり開発しているもの)、さらにアイソスタシーを考慮した地殻変動モデル(極地研の奥野淳一さんによる)とを組み合わせて、主に2つの要因によって氷期-間氷期サイクルが説明できることを示しました。

それは

日射量」と「気候・氷床・リソスフェア-アセノスフェア間のフィードバック

です。

温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)も変動を増幅させる上で重要な役割を負っているものの、それは中心的な役割を負っていないことがCO2を一定にした感度実験からも実証されています。

とりわけ重要なのは、北半球高緯度の氷床の中でも、特に北米氷床ヒステリシス(※)で、氷床の加重によるゆっくりとした地殻の沈降により、氷床の高度が低下し、それによってわずかな日射量の変動に対しても応答の感度が高まることが原因として挙げられています。
※ある系の状態がそれまでの履歴に応じてその後の応答が変化すること

氷床が十分蓄積し、それが2万年の周期を持った歳差運動による北半球高緯度の日射量の増大に一致した時(10万年の周期に対応)、急速に氷床が崩壊(ターミネーション)します。
従って、ゆっくりとした成長と、急速な崩壊という、氷期-間氷期サイクルを特徴付ける’ノコギリ歯型’の変動となります

一方、ヨーロッパ地域に存在するヨーロッパ氷床は、比較的温暖な地域に位置することから大規模な氷床が形成されず、変動周期にも10万年周期はほとんど見られず、2万年と4万年の変動周期が卓越しています。

つまり、「蓄積できる氷床の体積」と「ヒステリシス曲線の傾き」とが氷床の安定性と10万年周期が出現するかどうかに重要であるようです。

また別の感度実験で、日射量変動のうち離心率・歳差運動・地軸傾動をそれぞれ固定して氷期-間氷期サイクルが生じるかどうかを確かめたところ、地軸傾動を固定したもののみで10万年周期が確認され、離心率と歳差運動を固定すると10万年周期がなくなることから、これらが中心的な駆動力であることが実証されました。

彼らは論文中では述べていませんが、もう一つ、氷期-間氷期サイクルをめぐる最大の謎が残されています。
それは「Mid Pleistocene Transition(MPT)」で、約100万年前に氷期-間氷期サイクルの卓越周期が4万年から10万年に変化したことです。

今後、さらなるモデル開発とコンピュータの処理能力の改良によって、より総合的な理解が進むものと思われます。


◎その他の参考文献
アイスコア〜地球環境のタイムカプセル(成山堂書店)
地球惑星科学 気候変動論(岩波書店)
第四紀学(朝倉書店)