Science
VOL 341, ISSUE 6142, PAGES 101-208 (12 JULY 2013)
Editors' Choice
Conservation Pay-Off
保全のペイオフ
Ecol. Lett. 16, 870 (2013).
21世紀になって、人間による生物多様性の消失と生物種の単一化がありふれたものになりつつある。しかし、ヨーロッパ(イギリス・ベルギー・オランダ)において1930年代から測定されたデータによると、ある種の植物と花に集まる昆虫類のなかには多様性の消失速度が低いものもあるという。20世紀半ばの農業の広がりとともにもっとも大きく低下したが、1990年以降、土地利用変化の減少や保全努力の甲斐あって鈍化していることが示された。
Corals Under Threat
危機にさらされているサンゴ
Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 110, 10.1073/ pnas.1301589110 (2013).
カリブ海に棲息する重要な造礁サンゴ(Porites astreoides)の成長速度を評価したところ、酸性化した海水(飽和度が低い海水)に棲息しているサンゴほど成長速度が小さいことが示された。この観測事実は実験室内で確認されている酸性化実験の知見とも整合的である。サンゴがローカルな酸性化に対して迅速に応答できないことを示しており、’海洋酸性化に対してサンゴが適応できるかもしれない’という希望に翳りをもたらすものである。
>関連した記事(Nature#7454 "RESEARCH HIGHLIGHTS")
Acidic waters do not toughen corals
酸性化した水はサンゴを堅くしない
海洋酸性化によって石灰化生物に負の影響が生じると考えられている。メキシコ・ユカタン半島における天然の酸性化した海水に生息するハマサンゴの一種(Porites astreoides)に対する調査から、周囲の酸性化海水に侵されていないサンゴに比べると、成長速度が低く、穿孔動物による浸食度が大きいことが示された。酸性化した海水に生息していながら、2100年に訪れるであろう海洋酸性化の規模には適応できないだろうと推測されている。
>話題の論文
Reduced calcification and lack of acclimatization by coral colonies growing in areas of persistent natural acidification
Elizabeth D. Crook, Anne L. Cohen, Mario Rebolledo-Vieyrac, Laura Hernandez, and Adina Paytan
ユカタン半島に生息するPorites astreoidesの石灰化速度が酸性度が増すごとに低下していることがCTスキャンを用いた高精度の分析から明らかに。また穿孔動物による骨格浸食の影響も酸性化するほどに増加することが示された。室内の酸性化実験の結果と整合的であることから、Porites astreoidesは生まれたときから常に酸性化した海水に曝されていながら、低いΩargの海水に適応できていないことが示された。
Just Like Home
故郷のように
Proc. R. Soc. London Ser. B 280, 10.1098/ rspb.2013.0979 (2013).
動物の子供が生息域を決定する際に、生存と繁殖という2つの観点が特に重要であり、それはideal free distribution理論で説明されている。そうした理論に反して動物が生息環境を選択している際には別の力学が機能している可能性がある。
20年という長寿命のアビは優れた環境が近くにあっても自分が生まれた湖を選択する傾向がある。それは特に親離れをした若い鳥に顕著で、成熟した鳥の場合その傾向は小さくなった。若鳥においては、繁殖に最適な優れた環境よりも、自身の生存に必要な馴染みのある環境の方が大切であると思われる。
>関連した記事(Nature#7456 "RESEARCH HIGHLIGHTS")
Familiar nest sites beat better lakes
馴染みのある巣の場所が良い湖に勝る
アメリカ北部の湖に生息するハシグロアビ(common loons; Gavia immer)にタグをつけて調査したところ、酸性度の高い湖で生まれたハシグロアビは、より広くて酸性度が低い子育てに優れた環境よりも、自分が生まれたところに似た場所を子育ての場所に選択することが示された。馴染みがある場所の方がエサに精通しており、生存の可能性が高まることが原因ではないかと推察されている。こうした「繁殖の成功」と「生存率」のトレードオフは他の生物にも当てはまるかもしれない。
News of the Week
Name Those Moons
それらの月に名前をつける
冥王星の2つの月の名前をめぐるインターネット投票や決定の経緯について。
>関連した記事(CNNニュース)
冥王星の月の名決定、スター・トレックファン失望
News & Analysis
Some Earthquakes Warn That They Are About to Strike
地震の中にはそれがもうすぐ起きそうなことを警告しているものもある
Richard A. Kerr
地下深部への汚染水の注入によって引き起こされる地震については、地震が起きる前に警告が発令される。
Field Test Shows Selection Works in Mysterious Ways
野外調査から謎に満ちた方法で選別が働いていることを示している
Elizabeth Pennisi
大きな囲いの中で行われた砂丘ネズミ(dune mouce)の調査から、進化によって選別された遺伝的変異のリアルタイム追跡が可能に。
Diverse Crystals Account for Beetle Sheen
多様な結晶が昆虫の輝きを説明する
Elizabeth Pennisi
玉虫色に輝く昆虫(ゾウムシ;weevil)の進化について。
News Focus
Meteorite Mystery Edges Closer to an Answer—Or the End of a Field
隕石の謎が答えまであと一歩のところに?或いは研究分野の終焉?
Richard A. Kerr
コンドリュールの起源はこれまで多くの科学者の頭を悩ませてきた。それに関する新たなアイディアが提示されたが、専門家の中にはそれに対して悲観的なものもいる。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
Research
Perspectives
A Muscular Perspective on Vertebrate Evolution
脊椎動物の進化に対しての筋肉的な観点
Shigeru Kuratani
Trinajstic et al.の解説記事。
初期のアゴのある脊椎動物の肩の筋肉の進化は、それが進化の中間的な状態であることを示している。
Review
Injection-Induced Earthquakes
注入によって引き起こされる地震
William L. Ellsworth
Background:
人為起源の地震が政治的・科学的な重要性から広く議論されている。地下深部への流体注入が地震を誘発する可能性については昔から知られていた。近年、技術の進展とともにこれまで採算が取れないと考えられていたようなサイトからも石油・天然ガスが採掘されつつあり、そうした地点で人工地震が起きている。
Advances:
"fracking"によってM2以下の小型の地震波頻発しているが、破滅的な地震へと繋がるリスクは低そうである。これまで10万を超す地点でfrackingが行われており、観測された最大の地震波M3.6である。一方、深い掘削井への排水の注入によって引き起こされる地震は巨大なものへと繋がるリスクがある。例えば2011-12年に生じた人工地震のうち最大のものはオクラホマ州で起きたM5.6のもので、14家屋が破壊され、2人が負傷した。流体圧が上昇したことによって、断層帯が弱まったことが地震発生のメカニズムとして考えられている。3万件のそうした流体注入サイトのうち、大規模に排水を注入している、または断層に直接圧力擾乱を与えているようなものはほんの一握りにすぎない。
Outlook:
流体注入が招く人工地震は地震災害へと繋がる可能性が多いにあり、石油業界はその掘削には明確な要請が必要であり、その監視は科学に基づく必要があり、一般の人々には保証が必要である。現在の汚染水の処理法については表層・地下水の汚染は配慮しているが、地震発生のリスクについては考慮されていない。注入されている流体の量や圧力なども十分には規制機関に報告されているとは言いがたい。巨大地震の予兆になるような小規模の地震は多くのサイトで検出できるほどの体制が整っていない。
Reports
Search for the Exit: Voyager 1 at Heliosphere’s Border with the Galaxy
出口探し:ボイジャー1号が太陽圏と銀河の境界に
S. M. Krimigis, R. B. Decker, E. C. Roelof, M. E. Hill, T. P. Armstrong, G. Gloeckler, D. C. Hamilton, and L. J. Lanzerotti
太陽圏と星間物質の中間においてボイジャー1号が観測した高エネルギー荷電粒子の測定結果について。2012年8月25日に太陽起源の粒子が1/1000に減少し、代わりに銀河起源のものが9.3%増加した。
Magnetic Field Observations as Voyager 1 Entered the Heliosheath Depletion Region
ボイジャー1号が太陽圏の減衰域に入った際の磁場観測
L. F. Burlaga, N. F. Ness, and E. C. Stone
ボジャー1号による磁場観測は予想していなかった領域を5回通過したことを物語っている。境界の通過時には磁場の方向には変化が見られず、まだ太陽磁場減衰域(heliosheath depletion region)にいることを示唆している。
Voyager 1 Observes Low-Energy Galactic Cosmic Rays in a Region Depleted of Heliospheric Ions
ボイジャー1号が太陽圏のイオンが減少した領域における低エネルギーの銀河宇宙線を観測する
E. C. Stone, A. C. Cummings, F. B. McDonald, B. C. Heikkila, N. Lal, and W. R. Webber
ボイジャー1号による観測から、6年間安定して観測していた低エネルギーのイオンが2012年8月25日に突如3分の1に減少し、その後完全に消失したことが示された。磁場観測からは太陽の影響がまだ残っていることが示唆されているが、銀河線は太陽圏外から来るものが急激に増加した。
Fossil Musculature of the Most Primitive Jawed Vertebrates
もっとも原始的なアゴを持った脊椎動物の筋系の化石
Kate Trinajstic, Sophie Sanchez, Vincent Dupret, Paul Tafforeau, John Long, Gavin Young, Tim Senden, Catherine Boisvert, Nicola Power, and Per Erik Ahlberg
アゴを持たない脊椎動物からアゴを持つものへの進化によって、頭の筋肉と骨格に変化が生じた(首の筋肉と肩の帯が分かれた)。アゴのある脊椎動物としてはもっとも初期の生物である、板皮類の魚(armored fish)の筋系に関して。
Enhanced Remote Earthquake Triggering at Fluid-Injection Sites in the Midwestern United States
アメリカ中西部の流体注入サイトにおける遠隔地震トリガーの増加
Nicholas J. van der Elst, Heather M. Savage, Katie M. Keranen, and Geoffrey A. Abers
近年のアメリカ中西部の地震の急激な増加は地下深部への流体注入の増加と関連があると思われる。人工地震が疑われるような地域は、より遠隔地で起きた地震(スマトラ・東北沖地震など)による地震波によって誘発されるストレスに対してもより影響されやすいことを示す。流体注入から地震発生までの期間が長いようなサイトほど、6~20ヶ月以内に中規模の地震を経験した地域ほど、遠隔地の地震に対する感度の高まりが明確に見られる。