K. M. Costa, J. F. McManus, R. F. Anderson, H. Ren, D. M. Sigman, G. Winckler, M. Q. Fleisher, F. Marcantonio & A. C. Ravelo
Nature 529, 519–522 (28 January 2016)
Covariation of deep Southern Ocean oxygenation and atmospheric CO2 through the last ice age
Samuel L. Jaccard, Eric D. Galbraith, Alfredo Martínez-García & Robert F. Anderson
Nature (2016) doi:10.1038/nature16514
より。
ともに氷期における大気中CO2濃度低下の謎について堆積物中の古気候指標から考察した論文。
JOIDES Resolution@インド洋南西部の甲板より。視線の先にJaccordらが得た堆積物の採取地が |
氷期の大気中CO2濃度は間氷期に比べて約80 ppm低かったことが分かっているが、その原因は諸説あり決着していない。
おおまかには
▶︎氷期における水温低下
▶︎鉄肥沃に伴う生物生産の活性化
▶︎南極周辺の海氷形成の強化とそれに伴う南極底層水形成
などが原因ではないかと考えられている(ただし、様々なものの組み合わせ)。
Costa et al.はとくに赤道太平洋に着目し、鉄肥沃が赤道太平洋の生物生産に与えていた影響を堆積物中のダスト(鉄を多く含む)量と生物生産の指標(生物源オパール、231Pa/230Th、Ba、δ15N)を最終氷期・完新世という2つの時間断面で比較することで考察を行っている。
その結果、最終氷期にはダスト量が数倍に増えているにもかかわらず、生物生産はほとんど変化していなかったことが分かった。このことは、赤道太平洋において鉄肥沃が生じていなかったことを物語っている。
※いわゆるHNLC海域では鉄に代表される微量金属が生物生産を制限していると考えられており、鉄が与えられると生物生産が活性化することなどが実験などからも示されている
一方、Jaccold et al.は南大洋の大西洋セクターから採取された堆積物中から底層水の酸素濃度に敏感に反応する元素を抽出して、海洋表層の生物生産と亜表層における有機物分解(remineralization)とを結びつけて考察を行っている。
例えば、海洋表層で生物生産が活発になればなるほど、有機物分解が起き、亜表層の酸素が消費され(O2濃度の低下)、二酸化炭素が放出される(DICの増加)。
従って堆積物中で貧酸素状態で濃度が増す元素は海洋表層の生物生産の指標になり得る。
彼らはマンガン濃度と自生ウラン(authigenic uranium)という2つの指標を軸に大気中CO2濃度との関連について議論を行っているが、氷期においてCO2濃度が低かった時期に、南大洋の大西洋セクターの底層水の酸素濃度が著しく減少していたこと、またそれはダスト量が増加していた時代に重なることを示した。
さらに、生物生産の指標として用いられる生物源オパール(ケイ藻などが生産するケイ酸の骨格)とアルケノン(円石藻が生産する脂質)の量も同時期に増加していたことを示した。
また氷期のハインリッヒイベントと呼ばれる気候変動に伴って大気中のCO2濃度は10ppmほど増減を繰り返したことが知られているが、それに同期して以上すべてのプロキシが変動していた。
以上のことから、氷期における大気中CO2濃度変動のかなりの部分は、
北半球の寒冷化(南半球の温暖化)イベントと南半球の偏西風の南下
➡︎パタゴニア氷河からのダストの飛来
➡︎南大洋における鉄肥沃
➡︎生物生産の強化
➡︎亜表層における酸素消費とCO2放出
➡︎亜表層水のpH低下とアルカリ度増加
➡︎大気から海水へのさらなるCO2吸収
という一連の大気-海洋間の気候フィードバックが働いた結果として解釈することができる。