Large deglacial shifts of the Pacific Intertropical Convergence Zone
A.W. Jacobel, J.F. McManus, R.F. Anderson & G. Winckler
Nature Communications 7:10449, DOI: 10.1038/ncomms10449 (2016)
より。
赤道太平洋から得られた堆積物コアからダスト量を復元し、1つ前の退氷期のハインリッヒ・イベント(HS11)における熱帯収束帯の変動を議論。
過去の風の変動を復元することは極めて難しい。なぜなら風は流体であり、固相に記録が刻まれることが稀だからである。
湧昇やリップルマークのように、風が間接的に駆動する海流の動きを地質学記録から捉えられることはあっても、それはあくまで間接指標である。
この研究が着目したのは、雨によって大気から湿式沈着される大気中のダスト。すなわち、雨によって大気中の微粒子が除去される過程である。
筆者らは赤道太平洋に居座る熱帯収束帯(ITCZ)の変動を、海底堆積物中のダスト量から復元しようと試みた。
筆者らは堆積物コア中に含まれる232Thを同位体希釈法によって分析した(Element-XR)。232Thは大陸起源の岩石中に高濃度で含まれ、生物源の寄与はほとんど無視できる。
海底の動きが無視できる時間スケールであれば、ダスト量の時間変動は湿式沈着の程度、すなわちITCZの空間移動に置き換えることができる。
筆者らは赤道太平洋において異なる緯度から堆積物を採取し、ダスト量を復元した。その結果、一つ前の退氷期(ターミネーション2;135–127 ka)のハインリッヒ・イベント(HS11)にITCZが現在の位置よりもはるかに南下していたことを見出した。
現在赤道太平洋におけるITCZの平均的な位置は~6°Nであるが、HS11には0°N/S付近まで南下し、それはカリブ海・カリアコ海盆から復元されているITCZの変動と極めて整合的であった。
また最終間氷期(MIS5)には現在よりもやや北(~7°N)に位置していた可能性も見出された。
ITCZの位置は南北両半球の熱コントラストによって制御されていると考えられている。
例えば、ハインリッヒ・イベントの際には北半球が寒冷化し、反対に南半球は温暖化したことが様々な古気候指標から見出されている。それに伴いITCZはより暖かい半球(つまり南半球側)のほうに変動していたと考えられている。赤道太平洋からはITCZの復元がこれまでできておらず、すべてモデルシミュレーションによるアウトプットに依存していたため、この研究は大変重要な古気候データを提供したと言える。
ITCZの位置は全球的な水循環や大気中の物質(エアロゾルなど)輸送にも影響したはずであり、植生・大陸風化・生物活動とも関係したものと思われる。