M. O. Clarkson, S. A. Kasemann, R. A. Wood, T. M. Lenton, S. J. Daines, S. Richoz, F. Ohnemueller, A. Meixner, S. W. Poulton, E. T. Tipper
Science 348, 229–232 (10 April 2015).
とその解説記事
Acid oceans cited in Earth's worst die-off
Eric Hand
Science 348, 165–166 (10 April 2015).
より。
アラブ首長国連邦(UAE)の炭酸塩質堆積岩中の石灰化生物の殻のδ13C・δ11Bの測定と炭素循環モデルから、地球史上最大の絶滅が起きたペルム-三畳紀境界(P/T境界)の炭素循環を考察。
P/T境界においてはδ13Cが急激に負にシフトすることから、低いδ13Cを持つなんらかの炭素が大量に大気へともたらされ、それがきっかけで大量絶滅に繋がったことが示唆されている。
最有力の候補として、現在ロシア・シベリア地域に存在する玄武岩(シベリア洪水玄武岩)が当時大量に噴出したことが挙げられている。
マントルには大量の、かつδ13Cが軽い炭素が存在するためである。
他にも、大陸棚斜面や陸域などに存在する永久凍土などもその候補の一つである。その際、メタンが大量に放出されるが、メタンは大気中で速やかに酸化されCO2へと姿を変える。
大気に大量のCO2がもたらされると、地球表層では様々なフィードバックプロセスが働くことが予想される。
例えば、
- 温室効果に伴う温暖化
- 海の酸性化(pH低下)
- 風化の促進
- 海の貧酸素化(温室効果により海洋表層が温暖化し、海が成層化し、酸素の溶解が妨げられる)
- 強烈な酸性雨
など。
これまで、P/T境界の大量絶滅は大気へのCO2の注入と、それに伴う様々なフィードバックプロセスの結果と考えられてきたが、こと海洋酸性化についてはどの程度の規模で生じていたのかがよく分かっていなかった。
そこで彼らは過去のpH計として寄与する炭酸塩のδ11Bに着目し、pHの復元を試みた。
δ13Cと同じような変動をするかと思いきや、意外にも異なる変動が見られた。
大量絶滅(Extinction Pulse)は、
- 最初のδ13Cの最小値(P/T境界を定義づける重要な特徴)(EP1: 251.96 Ma)
- その後の回復期におけるδ13Cの安定期(EP2: 251.88 Ma)
の2回に分かれて生じている。
実はEP1にはδ11Bには変化が見られず(海水pHの低下は起きていない)、EP2にのみ急激な減少(すなわち海洋酸性化)が見られた。EP2の海洋酸性化は現在起きているのと同程度の速さで生じたもので、~10,000年間に~0.7pHが低下したと試算されている。
彼らは炭素循環モデルを組み合わせて、δ13C・δ11Bをともに上手く説明できるようなシナリオを提案している。
詳細は割愛し、彼らが提案するシナリオを以下にまとめておく。
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EP1のδ13Cの低下はなんらかの軽いδ13Cを持つCO2が表層システムにもたらされたことが原因。候補は以下の通り。複数の組み合わせかもしれないが、まだ詳細な制約はなされていない。
- 火山性(シベリア洪水玄武岩)
- 火山周辺の有機炭素の酸化(assimilation of organic carbon from the host rock)
- メタンの不安定化
- 生物ポンプの崩壊
- 陸域炭素の埋没量の低下
しかし、当時の海水のアルカリ度は高く、またpH(とΩ)も高かったので、海水の大気CO2増加に対する緩衝能力が大きかった。シベリア玄武岩そのものの風化も海のアルカリ度をさらに増加させたに違いない。
そのため、海水pH(δ11B)には特に変化はなく、δ13Cにのみ低下が見られた。
EP2にはより多くのCO2が大気へともたらされ、強烈な海洋酸性化が生じた(δ11Bの急激な低下)。
海洋酸性化の結果、多くの固着性石灰化生物が絶滅し、テチス海全体から(生物源・非生物源両方の)炭酸塩が姿を消した。
シベリア玄武岩は炭酸塩岩に貫入しており、炭酸塩が熱変成を起こした証拠も得られていることから、炭酸塩の変成により、CO2が大気に放出された。
火山性のCO2と異なり、炭酸塩岩性のCO2はδ13Cがそれほど低くない(δ13C = +2 ~ +4‰)ので、一部の火山性CO2(δ13C = +2 ~ +4‰)と混ざった結果、正味でδ13Cには変化が見られなかった可能性がある。
EP2を生じさせた炭素の注入量は~24,000 PgCであり、その速度は~2.4 Pg/yrと試算。
その結果、大気のCO2濃度は現在の~20倍に増大し、それに伴う温暖化は~15 ℃だった。
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